2022年12月2日(金)

知られざる高専の世界

2021年9月30日

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堀川晃菜 ( ほりかわ・あきな)

サイエンスライター・科学コミュニケーター

新潟県出身。長岡高専への進学を機に理系の道へ。東京工業大学生命理工学部に編入学。同大学大学院生命理工学研究科修了。農薬・種苗メーカーでの勤務を経て、日本科学未来館の科学コミュニケーター。その後、WEBメディアの記者・編集者を務め、現在はフリーランス。著書に『化学技術者・研究者になるには』(ぺりかん社)、『みんなはどう思う? 感染症』(くもん社)。

次の世代へ引き継がれる「技術と志」

 桐村さんのように卒業生が橋渡し役として活躍する一方、新たな担い手となり得る人材も舞鶴高専から巣立っている。クレインブリッジの現場視察にも同行した二上稜太さんは、当時、専攻科2年生だった(高専には本科5年間を修了後、さらに2年間の専攻科がある。修了者は学士を取得し、大学の学部卒業生と同じ扱いになる)。

 野球少年だった二上さんは河川敷から眺めていた橋に憧れ、「橋を造りたい」と舞鶴高専へ進学。玉田研究室の扉をたたいた。だが、学ぶうちに現状が見え始め「新しいものを造るだけでなく、古いものを残していくためにどうしていくかに問題意識を持つようになった」と言う。転機となったのは、やはり橋梁点検・基礎編のインターンシップだったと振り返る。

 卒業研究では、修繕工事が行われていた淀川大橋(大阪府)に足を運び、工事の進行状況と橋の振動の関係を調べるなど「日々、橋を見ているうちに、守っていかなければという思いが強まった」と話す。この春、大学院に進学し、橋梁の研究を続けている。

 日本のインフラの点検レベルを底上げしようと奮闘する玉田教授の姿を見てきた二上さんは「昨日今日、そして明日も、人も車両も、安心して通れる当たり前の日常を守っていきたい」と話す。

 ぶれない二上さんの言葉は頼もしい。だが一方で、私たち自身も普段使うインフラにもっと目を向けなければならない。玉田教授は「かつて水田の用水路を自分たちで管理していたように、行政頼みではなく、管理の一部を住民に戻していかないと、特に過疎地では間に合いません。これからは市民協働型で、市民の手を借りながらインフラの安全性を守っていけるよう、小規模な橋の点検など市民学習として展開していきたい」と話す。

 人々の生活を守るインフラが、誰かの命を奪う悲劇が二度と起きないように──。インフラ老朽化問題で最終的に変えなければいけないのは、私たち生活者一人ひとりの意識かもしれない。

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Wedge 2021年10月号より
人をすり減らす経営は もうやめよう
人をすり減らす経営は もうやめよう

日本企業の“保守的経営”が際立ち、先進国唯一ともいえる異常事態が続く。人材や設備への投資を怠り、価格転嫁せずに安売りを続け、従業員給与も上昇しない。また、ロスジェネ世代は明るい展望も見出せず、高齢化も進む……。「人をすり減らす」経営はもう限界だ。経営者は自身の決断が国民生活ひいては、日本経済の再生にもつながることを自覚し、一歩前に踏み出すときだ。

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