あるいは、経済的地政学的状況が変わって、米国は今のままを続けることが出来るかも知れない。それならば今のままで良いが、もし、変化が急激に来ると、味方にとっても敵にとっても危険な状況となる、と論じています。
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この論文は、米国の海外コミットメント引き揚げ論ですが、リバータリアンのような原理主義的な孤立主義ではなく、よく論理を尽くしたものになっています。
台湾問題や海兵隊引き揚げなど、危うい主張もしてはいますが、現時点において、この論文が空理空論でないかもしれないのは、オバマ周辺が「ハト派の忠臣」(dovish loyalists:オバマの言うことを聞くハト派)で固められていて、財政の崖が解決されず、国防費が大幅削減される可能性が未だ排除されていない状況においては、そのための理論武装ともなり得るからです。
その場合、この論文も提起している唯一の解決法は、同盟国の負担増です。この点、日本は、あるいは、最早逃れられなくなる可能性もあると覚悟すべきです。
冷戦時代を思い起こせば、1970年代、西側がデタントの夢を貪っている間に、二度の石油ショックで膨大な収入を得たソ連が軍拡に乗り出し、ソ連の脅威時代が現出しました。70年代末のソ連のアフガン侵攻で眼が醒めた米国は、同盟国に対して、毎年実質5%の防衛費増額を要求し、英独仏はこれに応じ、たちまち西欧の軍事力が改善され、石油逆ショックの影響を受けたソ連は、到底これと太刀打ちできず、86年にはペレストロイカに追い込まれ、それがそのままソ連邦の解体を導きました。
当時、NATO諸国がネット5%増を三年だけ続けたのに対して、日本は、ロン・ヤス時代を中心に、90年代初頭まで十年以上増額を続け、F-15が200機、P3Cが100機、イージス艦が6隻の大海空軍を建設して、極東の軍事バランスを一変させています。それが、その後20年間更新されず中国に追い付き追い越されつつあるのは大問題です。当時、日本はまだ高度成長期であったから大軍拡が出来ましたが、今回は、当時の英独仏のように、経済成長の有無にかかわらず防衛力増強をしなければならないような客観的情勢になりつつあると思われます。
今回の安倍内閣の防衛費増額は誠に時宜を得たものですが、あるいは、今後の成り行きによっては、それだけでは日米関係維持に不足となるかもしれないことを覚悟すべきでしょう。
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