2024年12月21日(土)

Wedge REPORT

2013年3月14日

 エコポイントという言葉が示すように、この事業は温室効果ガスの削減義務を果たす1つの方法として環境省が推進していた。しかし、筆者の試算ではテレビ1台あたりの年間消費電力は130kWhから109kWhへと16%程度削減されたに過ぎない。12年10月に発表された会計検査院の試算によれば、新規購入が増えたことによって、本事業の前後でCO2の排出量は、逆に173万トン増加したという。

 家電エコポイント事業は経済政策でもあった。低迷する消費にテコ入れし、国際競争力を失いつつある日本の家電企業を支援するという意味もあった。この点で経済産業省は、11年6月、本事業が予算額の7倍に及ぶ5兆円の経済効果をもたらし、のべ32万人の雇用を創出したことを発表している。しかし人々はこうした効果を実感できただろうか。

 5兆円の経済効果とは、生産誘発額を合計した名目での生産額の増大であり、付加価値や利益の増大を示しているわけではない。生産の増大が雇用につながったのかも疑問である。1年や2年の事業に対して長期雇用を行う企業があるとは到底思えない。

 例えば、ヨドバシカメラを除く家電量販店大手7社のデータをみると、09年度から11年度の間に、売上高は5兆300億円から5兆6630億円へと急拡大したが、従業員数は4万7228人から4万7084人へとほぼ横ばいであった。事業終了後の落ち込みを見越して採用増を抑制したいと考えるのが通常の民間企業である。

 家電エコポイント事業終了後、日本の家電企業は、競争力を高めるどころか、逆に深刻な業績悪化に悩まされることになった。特に、テレビ事業の影響が大きかったパナソニック、ソニー、シャープの3社は、12年3月期の決算で、合計1兆5000億円に上る純損失を計上した。

 テレビパネル生産の主力であったシャープ堺工場もパナソニック尼崎第三工場も09年に稼働を始めている。建設計画は1ドル120円台の円安だった07年に発表されており、その時点では一定の合理性をもっていたのかもしれない。しかし09年には1ドル90円台まで円高が進んでいた。家電エコポイント事業による国内市場の拡大期待が工場稼働を正当化したとは考えられないだろうか。家電エコポイント事業終了後、尼崎第三工場は生産を停止し、堺工場の運営子会社は台湾にある鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘董事長(会長)の投資会社からの出資を仰ぐことになったのだ。


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