普及政策は基本的に価格競争を引き起こす。もちろん、普及のためには価格低下が必要なのだから、目的にかなってはいる。ただし、技術が標準化、汎用化した産業の場合には、それは、海外からの輸入品の流入を促し、日本企業の国内活動を圧迫する方向に働く可能性が高い。国内市場の拡大で、短期的には、様々な業者が潤うであろうし、雇用も生み出すだろうが、一時期の過剰投資が長期的には産業を壊しかねない。
市場で主流の結晶シリコン型太陽電池セルの75%は既に中国・台湾企業が生産している。結晶シリコン型太陽電池の技術は汎用化しており、市場で容易に調達できる。製造装置でも材料市場でも日本企業は競争力を失っている。
筆者は、中国の町工場のようなところで、元銀行員の社長が、ローカルな設備と材料を使って、十分な性能の製品を製造している現場を見てきた。中国企業による破滅的な競争の実態も観察した。中国の太陽電池の値段は、円安に振れた現在でも、設置込みでkWあたり14万円程度である(発電単価にして11~12円/kWh)。42円/kWhという破格の買取価格は、必ず安い海外品の流入を招き、価格下落は加速する。
日本企業も数年は恩恵を受けるだろうが、長期的にはテレビ産業と同じ運命になりかねない。原発を失った日本にとって太陽光発電の普及は重要である。しかし、FITが、日本企業の国際競争力を高め、長期的に日本経済を潤すとは思えない。今のやり方では代償が大きすぎる。
厳しい国際競争の現場見て政策立案を
経済成長という目的に軸足を置く安倍政権にとって、過去の政策から感じられる心配は杞憂なのかもしれない。しかし、複数の目的が絡む政策には、上記のような罠が、常につきまとう。目的が多岐にわたると、政策評価も複雑となり、失敗から学ぶことさえ簡単ではなくなる。実際、家電エコポイント事業は成功と評価されているし、FITを正面から批判する人も少数派である。
持続可能な強い経済を目指して、政策が具体的な民間支援まで踏み込むのであれば、産業技術の進歩、企業間競争、経営者の行動特性など、現場に根ざした知見を駆使して、各施策が、長い因果連鎖の末にどのような帰結をもたらすのかを、可能な限り思い描くことが大事である。