―― 数年前と比べ患者さんの変化などは見受けられますか。
芝山:今回のインタビューもそうですが、うつ病の情報が氾濫しています。書店では専門書に近いものから、うつ病の解説書、具体的な治療法、体験談など、一つのコーナーができるぐらいたくさんのうつ病関連の書籍が並んでいます。ネットで検索すれば大量の情報も容易に入手できます。それらの情報を患者さんは見てきているようで、専門的な知識をもって来院される人が少なくありません。
例えば問診票にある「今日はどうされましたか」という問いかけに対して、「うつ病の治療」と書いてきます。これは話を聞いてから医者が出す診断結果ですが、患者さん自身が自分の状態を、情報で得た知識を基に書いてくる。診察前から自分の病状を決めてくるのですから、病は気からではないのですが、思い込んだ通りの病状になってしまう危険性が出かねません。
また、逆に何も書いてこない人もいます。医者と患者さんとの最初の出会いは問診票ですので、そこに書かれている言葉のメッセージを重視します。とくに受診理由は自由に書いてもらうスペースなので、何を書いてあるのか、内容と書き方で患者さんの状態を掴むこともできます。何も書いていないと緊張します。それは自己防衛的な要素が強くあると思われるから。医者が治療のために敷くレールに乗ってこない、医療という土俵に上がってこないことが多いからです。そこで大事になるのが信頼関係を築くことです。
症状についてですが、以前とは大きな変化はないと思います。ただ、受診理由として、先ほども触れましたが会社から行くように言われ、最初から診断書をもらうために来ましたという患者さんが増えています。以前は、辛そうなので少し休養を取った方がいいと勧めると、会社を休むために診断書が必要になるので書くというパターンでした。
精神疾患は本人が言う話を前提にしますので、そこに詐病的な要素があっても見抜くことは難しいものです。もちろん経験から、これはおかしいな、と思うことはあります。しかし、問診票と患者さんが言うことを信用しなければいけないというのが私の基本姿勢です。嘘っぽい話をするには、それなりの理由があるはず。追求するよりも話を聞くことを重視し、うつ状態にある状況かどうかを見極めます。医師と患者の間で信頼関係が構築できなければ、心療内科での治療はできません。