2024年11月22日(金)

安保激変

2013年4月2日

 しかし、ここ数年の中国の海洋進出は、アメリカがアジア太平洋重視を打ち出す文脈で行われており、アメリカの覇権に挑戦する意図が見え隠れするようになっている。

 特に、中国は主権に関して譲ることができない「核心的利益」の保護を前面に押し出すようになった。しかも、当初「核心的利益」は台湾やチベット、ウイグル自治区のことを指すと考えられていたが、2010年に入って南シナ海を加え、2012年には東シナ海もそれに含んだことがあった。つまり、「核心的利益」は拡大する概念だと考えられる。

 昨年、中国はアメリカの同盟国であるフィリピンからスカボロ礁の実効支配を奪い、日本による尖閣諸島の実効支配にも挑戦して、「核心的利益」の拡大による現状変更をあからさまに行うようになっている。2007年に、中国海軍の楊毅少将がアメリカ太平洋軍司令官だったティモシー・キーティング大将に太平洋を二分割することを提案したが、すでにこの頃から戦略的反攻の兆しが現れていたのかもしれない。

 しかし、中国の挑戦に毅然と向かい合うべき時に、オバマ政権は2009年11月の米中共同声明で「核心的利益の相互尊重」を約束し、鳩山政権は「友愛外交」で現状変更を黙認するかのような誤ったメッセージを中国に送ってしまった。

 中国の海洋進出は、以上のように中国の歴史と毛沢東の戦略思想に基づいている。中国が戦略的反攻の段階に入っているという分析が正しいとすれば、習近平指導部の下で中国の対外政策が軟化する余地はほとんどない。むしろ周辺国に対する圧力は強まり、アメリカに対する挑戦も拡大していくだろう。日本は、アメリカやその他の友好国と連携を深め、中国の戦略的反攻に決して屈することがないことを毅然と示す必要がある。すでに始まっている防衛計画の大綱及び日米防衛ガイドラインの見直しは、中国の戦略的反攻という文脈で行われることを期待する。

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