2024年12月23日(月)

教養としての中東情勢

2022年6月18日

 長年同国の経済を動かし、国家破綻を招いた責任を問われるべき中央銀行総裁は解任されるどころか、各派の談合で任期の延長が決まった。腐敗を調査する民間団体が5月に発表したところによると、個人が自由に預金を引き出せない中、同総裁の息子が650万ドル以上を国外に送金していたことが発覚したことも国民の怒りに火をつけた。

イランとサウジの代理戦争も過激化の懸念

こうした中で先月、国民議会選挙(定数128)が行われ、同国最大の軍事組織であるイスラム教シーア派の「ヒズボラ」政治連合が議席を減らし、過半数を割った。対照的に「ヒズボラ」と敵対するキリスト教マロン派の「レバノン軍団党」が15から20に議席を伸ばした。

 「ヒズボラ」はベイルート港爆発事件の原因になった爆発物を倉庫に保管していたことからその責任が追及されてきたが、刑事捜査を途中で打ち切らせた疑惑が浮上し、人気を落とした。だが、選挙は「ヒズボラ」を支援するイランと、「レバノン軍団党」を援助するサウジアラビアによる代理戦争の様相も濃かった。小国レバノンをめぐるイランとサウジの覇権争いということだ。

 選挙の結果を受け、議席はキリスト教、イスラム教にそれぞれ64ずつ配分されるが、ミカティ現政権に代わる新政権の発足には利権の奪い合いなど各勢力による駆け引きが行われ、政治的な混乱は半年以上も続くことになるだろう。希望は改革志向の独立系の新人が13人も当選したことだが、腐敗の元凶である宗派の利権構造を崩すのは難しい。

 しかし、ウクライナ戦争による食料危機が深刻化すれば、国民の不満が一気に噴出し、宗派の対立も激化するのは必至だ。昨年10月にはベイルートで、「ヒズボラ」支持者らが激しい銃撃を受け6人が死亡する事件が発生。「ヒズボラ」は「レバノン軍団党」の犯行と非難、両派の緊張は沈静化していない。

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