ウクライナ戦争による小麦の輸入難で中東、アフリカ諸国は食料危機に直面しているが、中でも小麦の輸入世界一のエジプトと破綻国家レバノンは窮地に陥っている。だが、その背景には「両国の支配勢力が国民そっちのけで私腹を肥やす〝腐敗の構造〟がある」(中東アナリスト)ようだ。
パンの値上げが暴動に直結
ピラミッドと〝母なるナイルの国〟エジプトは人口約1億200万人の中東の大国だ。しかし、国際通貨基金(IMF)などによると、国民の3分の1は1日2ドル以下で生活する貧困層だ。
こうした庶民を直撃したのがパンの価格急騰だ。パンによっては2倍に跳ね上がった種類もある。ウクライナ戦争でウクライナやロシアからの小麦が入らなくなったことが大きな原因だ。
エジプトは世界最大の小麦輸入国で、その8割以上をウクライナとロシアに依存してきたため、戦争による影響は深刻だ。シシ軍事政権は4カ月分の小麦の備蓄があるとしているが、戦争が終わる見通しがないためインドなど他の輸入先探しに必死だ。その一方でIMFやサウジアラビアに緊急支援も要請している。
価格が上がっているのは主食のアエーシ(パン)だけではなく、食用油など他の生活必需品にも及んでいる。政府がパンの価格へ特別に注意を払っているのは、これが政情不安に直結する問題だからだ。エジプトでは70年代からパンの値上げがあるたびに反政府暴動が繰り返されてきた。
30年の長期にわたって支配してきたムバラク元政権が「アラブの春」で打倒された要因の一端はパンの価格に対する国民の不満があった。このためクーデターで政権を奪取したシシ大統領は30億ドル(約4000億円)もの補助金でパンの価格を維持、生活苦に対する国民の怒りを抑えてきた。
だが、ウクライナ戦争後のパンの価格の高騰に政府批判も高まり、ネット上では、〝飢えの革命〟〝シシよ、去れ〟など政権にとっては危険なハッシュタグまで現れた。政府はこうしたネット上の投稿を即刻削除し、批判の取り締まりを強化。同時に富裕層ら50万人からパンの配給を受ける権利などをはく奪、対策に躍起になっている。