山中深く新たな核施設
今回の政権崩壊は内外の深刻な脅威が高まっている中での出来事だ。内政的には、この春からパレスチナ自治区などでパレスチナ人によるユダヤ人へのテロが続発したのに加え、4月にはユダヤ人とパレスチナ人の聖地、エルサレムの「神殿の丘」付近で両者の衝突事件が相次ぎ、ガザ地区のイスラム原理主義組織ハマスとの本格的な交戦の恐れが高まった。
対外的には、ウイーンで行われてきたイラン核合意の再建協議が行き詰まり、敵国イランによる核開発が加速、核武装の脅威が切迫した。再建協議が暗礁に乗り上げたのは、イラン革命防衛隊のテロ指定の解除を要求するイラン側とこれに反対した米国が最後まで対立したことが大きい。イスラエルにとってはイラン核合意が復活しないことは歓迎だが、かと言って反発したイランが核開発を進めることも痛い。
だが、イスラエルの懸念をよそに、イランの核開発に拍車が掛かっているような展開が続いた。国際原子力機関(IAEA)などによると、イランは昨年末の時点で、濃縮度20%のウランを約114キログラム、同60%のウランを25キログラム保有していたが、さらに濃縮活動を進めたのは間違いない。IAEAによると、イランが核爆弾1個製造するための濃縮ウラン生産までわずか「数週間」という。
イランはさらに6月、IAEAが中部ナタンズなどの核施設に設置した核開発監視用カメラ27台を撤去すると発表したほか、ナタンズ南方の山中深くにトンネルを掘削、新たな地下核施設を建設していることが米ニューヨーク・タイムズの報道で暴露された。バイデン政権は写真などでトンネル網建設を確認しているにもかかわらず、公式には一切発表していない。
同紙によると、地下核施設の完成にはなお数年かかると見られるが、イランは2020年にイスラエルの破壊工作で失った遠心分離機施設をここに設置するのではないかという。イランはこの施設建設を、核合意再建協議で米国の譲歩を得るためのカードとして利用することも考えられる。この地下施設は米軍の地中貫通爆弾でも破壊するのは難しいが、イスラエルはバイデン大統領の訪問の際、この地下施設への攻撃問題を取り上げる可能性がある。