2022年12月5日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年7月26日

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 7月6日付のProject Syndicateで、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が、ウクライナが核を維持していたら安全だっただろうと考えるのは単純すぎる、強い不拡散体制は全ての国の利益になると強調している。

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 ナイ教授は、
①核を保有すればもっと安全になるとの主張は歴史を単純化するものだ。
②ウクライナが核を維持していたならばウクライナ侵攻は起きなかっただろうと言うことはできない、それはロシアの介入を速めたかもしれない。
③抑止力確立までの間の「脆弱性の谷」の問題もある。
④ロシアによるウクライナ戦争の真の教訓は、現行の不拡散条約を強化することであり、核拡散防止条約(NPT)を浸食するような行動は差し控えるべきだ。
と主張する。

 ナイの主張は、よく理解できる。しかし、ナイが、やや教条的にNPT体制の維持の必要性を強調することには、やや違和感を覚える。

 今や、「強い不拡散体制は全ての国の利益になる」と言い切ることは出来なくなっているのではないか。NPTの当初の構想は正しかったとしても、NPT発効後50年余りが経ち、「イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮が新たに核を保有し」、その他にも、イラン等、核オプションを検討する敷居国がいる。

 新たな4カ国の核保有は、核拡散の先例になり、北朝鮮は核保有国と認知されることを執拗に求めている。核を含む大量破壊兵器を放棄したリビアのカダフィ大佐の末路も一部には同様の教訓になっただろう。

 第二の問題は、NPTの五核保有国(米露中英仏、国連安保理の常任理事国)は十分な責任を果たしているかということである。これらの国は、その特権的な地位の見返りに、核不拡散の義務、軍縮交渉の義務を課されており、これらの義務は五核保有国の共同責任とも言える。しかし核軍縮交渉は進んでいない。

 中国はそれに加わることを拒み、反対に核サイロの増設など核能力を拡大している。トランプの米国は軍備管理協定から撤退し、ロシアも撤退した。中露は北朝鮮の核開発に対し生半可な態度を維持し、北朝鮮の非核化に全面的な力を貸そうとしない。

 これでは核敷居国を止めることはできない。北朝鮮の非核化は、五核保有国、特に中露が決意すれば容易に達成できるはずだ。五核保有国は不拡散の義務を新たにし、中国は核軍縮交渉に参加すべきだ。

 第三は、ウクライナ戦争の影響である。ナイは、ウクライナが「核を維持していたならばこんなことは起きなかっただろうと言うことはできない」と言う。しかしそれ程断言はできないのではないか。

 ウクライナ戦争は、核保有国による非核保有国に対する一方的な侵略以外の何物でもない。更にプーチンはあからさまに核の恫喝をしている。それは北朝鮮やイランなどの核保有の誘惑を一層強めることになったことは否めない。

 更に、1994年のブダペスト覚書(ソ連から独立したウクライナが核放棄することで、英米露がウクライナの安全を保証することで合意したもの)は、2014年のロシアによるクリミア併合の際、無残に無視され、無意味だった。これでは不拡散に賭けることはできないと考える国があってもおかしくない。

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