2024年7月16日(火)

Wedge REPORT

2013年5月2日

ロシアによる「対中牽制」は期待できるか?

 今回の安倍首相の訪露では、防衛・外務閣僚による対話枠組み、いわゆる「2+2(ツー・プラス・ツー)」を立ち上げることも合意された。これまで、我が国は米国及びオーストラリアとの間でこの種の枠組みを立ち上げているが、ロシアは三番目ということになる。かつての仮想敵国であり、現在も米国を中心とする安全保障秩序の外に居る国であることを考えれば、異例といってよいほど緊密な安全保障対話枠組みと言えるだろう。

 ロシアはこれまでにも日米との安全保障協力に積極的な姿勢を示しており、日米露の有識者による年次安全保障対話や、艦艇の訪問・合同演習といった動きを活発化させてきた。また、日米のみならず東南アジア諸国との安全保障協力も増加しており、特にヴェトナムについてはカムラン湾に小規模な海軍の補給施設を建設することも検討されているという。

 こうした中、我が国で最近浮上してきたのが、「ロシアを巻き込んで対中牽制を図ろう」という議論である。前述のように、ロシアは中国に対して領土保全上の懸念を持ち、急速な軍備拡張にも脅威認識を持つ軍事専門家が多い。

 だが、「対中牽制」で日露が提携できるかと言えば、筆者の見解は極めて否定的である。これも既に述べたことだが、中国はロシアにとって最大の貿易相手国であり、2012年の貿易額は過去最高の880億ドルに及んだ。2015年には1000億ドルを突破するとの予測もある。

 これに対して日露間の貿易額は、過去最高であった2012年でも255億ドルに過ぎない。今回の首脳会談で日露両首脳は現状の貿易額が「ポテンシャルに比べて少なすぎる」との認識を一致して示したが、今後、経済関係を相当程度まで深化させない限り、ロシアが巨大な対中貿易の利益を犠牲にして日本とともに「対中牽制」に廻ることは考えにくい。

 また、ロシア自身が対中脅威認識を持っていることは事実であるし、そのような認識の前にロシアの対アジア戦略がはっきりと定まらずにいることも確かであるとは思われるが、再び長大な国境線を挟んで中国と武力対峙するような状況はロシアとしても可能な限り回避したい筈だ。脅威ではあるが、だからこそ刺激したくない、というところであろう。

 最近、モスクワを訪問した際に、筆者はあるロシア人の日本専門家からこんな皮肉を言われた。


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