市制化により発生した問題
そして、ご多分に漏れず、急増ぶりの裏には問題も多々存在した。設置基準を満たすための数合わせが行われ、実質を伴わない市制化も増えた結果、期待された牽引力は発揮できず、経済発展につながらないケースもたくさん生じた。最大の問題として指摘される点は、市が農村部を発展させるのではなく、むしろ圧迫し収奪している、というものであった。つまり、資源を農村部から吸い上げて市中心部のみの発展に用いているという批判である。並行して1990年代半ばより農村・農業・農民の低開発問題(「三農問題」)が浮上したことから、都市に農村を管理させる「市管県」方式は厳しい批判にさらされ、今日では方向転換が進行中である。
近年の地方政府指導者からすると、財政収入は「土地財政」すなわち土地使用権の譲渡益に依存するようになっているため、自分の任期中に土地の価値を上げて譲渡益の最大化を目指すことになる。また管轄する地方の経済成長率が人事評価の重要な指標となるため、浪費であっても公共投資は手っ取り早い手段となる。都市(再)開発にともなう住民の強制移転は、「人を本とする」「和諧社会」建設を目指した、胡錦濤政権の間に社会問題化した。ましてや資源バブルの内モンゴル自治区などでは「ゴーストタウン(鬼城)」ができてしまっていることは内外メディアで広く取り上げられてよく知られていよう。「土建国家」ならぬ「土建地方政府」現象がさらに深刻化することは想像に難くない。あるいは、地区級市、県級市の新設や昇級再開を求める声も高まろう。
都市戸籍を持てず社会サービスを
満足に享受できない出稼ぎ者
すでに紙幅が尽きたのでもう一つの論点については指摘するにとどめるが、住民と住民予備軍の思惑も無視できないはずである。冒頭にも触れたように、都市に居住する農民工は2億6000万人という規模に達しており、そのうえ毎年1000万人の人口流入が見込まれている。こうした出稼ぎ者は都市戸籍を持たず、正規の市民としての権利を享受できない。いわば「外国人労働者」扱いされ、現在、衣食住をはじめ、子弟の教育、医療などで不安定な状況にあることは周知の事実である。改革の一環として、中小都市の都市戸籍が獲得しやすくなったが、誰もが北京や上海といった大都市に住みたがる状況は変わりそうにない。人の住まない都市は維持も難しく、これから「都市化」するような中小都市はやはりゴーストタウン化するおそれも否めない。
新政権の掲げる「人類史上かつてない規模の都市化」政策が政権の思惑通りに進むのか。この近い過去の経験の検討からも察せられるように、けっして楽観を許さないことだけは確かである。
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