2024年12月10日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年5月9日

 中国では今、官民挙げての「安倍政権批判」の嵐が吹き荒れている。政府関係者、マスコミ、学界などが総動員されるような形で、安倍政権の進める国内政策と外交政策のすべてに対し、史上最大の罵倒合戦ともいうべき大掛かりな批判キャンペーンが展開されている。

 特に今年の5月に入ってから、共産党機関紙の人民日報や最大の国営通信社の新華社をはじめ、中国の主要メディアは連日のように、「安倍政権が日本を危険な道へと導いている」、「安倍の言動はその悪魔のような国粋主義の正体を現した」などと、批判というよりもむしろ罵倒に近い「安倍叩き」を行っている模様だ。

 とにかく安倍政権の「改憲志向」から閣僚の靖国参拝、主権回復の記念式典での「天皇陛下万歳三唱」から、ニコニコ動画主催のイベントで安倍首相が自衛隊出展の戦車に乗ってポーズをとったことまで、安倍晋三という人間の一挙手一投足のすべてが中国の高官や学者やメディアにとって糾弾と痛罵の材料となっている有様だ。

「プーチン大統領が安倍首相に冷や水を浴びせた」?

 滑稽にも見えるこのような低レベルの批判キャンペーンの中で突出しているのは、安倍政権の進める一連の外交活動に対する攻撃である。

 たとえば4月29日、安倍首相がロシアを訪問してプーチン大統領との間で歴史的首脳会談を行ったが、その翌日の30日、中国主要紙はいっせいに新華社電を引用した形で、「安倍訪ロの具体的な成果がなかった」として、「プーチン大統領が安倍首相に冷や水を浴びせた」などと酷評した。

 もちろん、安倍首相の訪ロ及び首脳会談は、中国紙に「酷評」されるほどに「成果の乏しい」ものではなかった。日露首脳が平和条約の締結に向けて領土交渉の再開を確認し合ったこと自体は大きな成果であるし、日露間の包括的な経済交流の推進も加速化するだろう。しかも、日露間では今までなかった安全保障上の対話が始まることに大きな歴史的意義があろう。

 だが新華社電はこうした明々白々な事実に目をつぶって、安倍首相の訪ロを必死に扱き下ろそうとしている。そこにはやはり、安倍政権の外交を意図的に貶めてやるという思惑があると感じられる。

 たとえば、「プーチン大統領が安倍首相に冷や水を浴びせた」と嘲笑したその根拠はすなわち、プーチン大統領が首脳会談後の共同会見で行った「領土問題は一日にして解決できるものではない」との発言であるようだが、しかしそれはどう見ても、プーチン大統領が一方的に安倍首相に「冷や水を浴びせた」ような事態ではない。むしろ両首脳は共通して「領土問題」解決への意欲を示しておきながらも、その難しさに対して十分な認識を示しただけのことである。会見の中で安倍首相も、「問題解決の魔法の杖がない」と言ってプーチン大統領と同様の冷静さを示している。


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