つまり、新華社電の論評は事実に対するまったくの歪曲であり、そうまでして何とか安倍首相の対ロシア外交を貶めてやろうとする魂胆が見え見えなのである。
訪米も「大失敗」?
実は、安倍外交に対する中国メディアの根拠なき酷評は今度の訪ロで始まったわけではない。今年2月、安倍首相が就任してから初訪米した時、中国国内の主要メディアは口を揃えて「安倍がオバマ大統領に冷遇された」と報じて、安倍首相の訪米を「屈辱の大失敗」と論評していた。
もちろん、安倍首相が訪米で「冷遇」されたような事実はどこにもない。そして後述するように、安倍首相とオバマ大統領との首脳会談では、日本のTPP交渉参加に関して日本側の要求を取り入れた形で合意に達したことは周知の事実である。
それでも中国の国内メディアはやはり、このような重要事実を完全に無視して、とにもかくにも安倍首相の対米外交が「失敗」であると決めつけて嘲笑しようとするのだ。安倍訪ロに対する論評の場合と同様、安倍政権を貶めようとする中国の官制メディアの執念深さは、もはや病的な異常さの域に達しているように見える。
敗北感を隠せない中国
問題は、中国の官制メディアがそれほど病的な異常さを持って安倍首相の外交を扱き下ろすのは一体なぜなのか、であるが、その謎はむしろ、「対中国」の意味合いも含めての安倍外交の大いなる成功と、その裏返しとしての中国外交の大いなる敗北感にあるのではないかと思う。
去年12月に安倍政権が成立してから、首相とその閣僚たちは明らかに、「中国包囲網」の構築を意図する周辺国外交を精力的に開始した。去年の12月28日には、安倍首相はロシアのプーチン大統領と約20分電話会談し、北方領土問題の解決に向け平和条約締結への作業を活発化させることで一致した。さらにオーストラリアやインド、インドネシア、ベトナムなどの各国首脳とも電話会談し、アジア周辺国との連携を深めた。
そして今年の1月12日、岸田文雄外相が豪州を訪問して安保協力の拡大を含めた戦略的パートナー関係を強めた。1月16日から、安倍首相はベトナム、タイ、インドネシアの3カ国を歴訪し、「自由と民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を同じくする国々と関係を強化していく」との理念において、安全保障分野での連携も含めた諸国との関係強化に努めた。
その一連の周辺国外交の総仕上げとして、今年の2月に安倍首相就任後初めての訪米を果たした。そして前述のように、オバマ大統領との首脳会談では、「関税撤廃の例外を認めるべき」という日本側の主張が受け入れられた形で、日米両国が日本のTPP交渉参加に関する合意に達した。その結果、安倍政権は懸案事項のTPP交渉参加に踏み切ったのは周知の通りである。