2024年11月21日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年5月9日

 アメリカ政府によるこのような明確な態度表明の極めつけはすなわち、米国のヘーゲル国防長官がワシントン時間4月29日に日本の小野寺五典防衛相と会談した際、尖閣問題について米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約の「適用範囲にある」と明言した上で、「日本の行政的なコントロールを軽視するような目的で取られる行動に反対の立場を取る」と、米国国防長官として初めて、中国の挑発的行為に対する反対の姿勢を鮮明にしたことである。

 米国政府によるこのような明確な態度表明により、軍事などの物理的強制手段をもって尖閣諸島の日本の実効支配を覆そうとする中国の試みはほぼ完全に封じ込められたと言ってよい。少なくとも現時点では、習近平政権は尖閣の強奪をもはや諦めるしかない。それはまた、鮮やかな安倍外交によってもたらされた中国の大いなる挫折なのである。

 だからこそ、5月に入ってから中国は国内の宣伝機関を総動員して凄まじい「安倍批判キャンペーン」を展開してきたわけである。2月の安倍訪米に対する中国側の批判論調と同様、このような批判キャンペーンの展開はまた、中国自身の悔しさの発露と、自らの失敗を国民の目から覆い隠すための宣伝工作であるに過ぎない。

習近平のロシア訪問の意味

 そして、上述のヘーゲル・岸田会談と同時進行的に、「中国包囲網」の構築を目指す安倍外交はいよいよ、中国にとっての「裏庭」であるロシアにも手を伸ばしているのである。

 それはすなわち、4月29日における安倍首相の訪ロと日露首脳会談の実現であるが、実は安倍訪ロが実現する1カ月ほど前に、習近平国家主席も就任後最初の訪問先としてロシアを選び、一足早くモスクワを訪れた。

 国家主席就任後の最初の訪問先としてロシアを選んだことは当然、習近平政権が対ロシア外交を特に重視していることの現れである。実際、中国は近年以来、ロシアとの関係強化を自らの国際戦略の重要な柱の一つに据えて対露外交を優先している節があり、ロシアとの関係強化によってアメリカを牽制するというのがその思惑の一つである。特に習近平政権は、ロシアと連携することによって日本などが構築しようとする「中国包囲網」を打ち破ろうと秘かに考えていると思われるため、ことさらに対露外交に力を入れている。

 そのロシア訪問中に、習近平国家主席はモスクワ国際関係大で講演し「(中露両国は)第2次世界大戦の勝利で得た成果と戦後の秩序を守らなければならない」と述べたが、それは明らかに日本を強く意識した発言であることは言うまでもない。つまり、先の大戦の「敗戦国」の日本との間で北方領土問題を抱える同じ「戦勝国」のロシアと第2次大戦の歴史観を共有することにより、日米同盟を相手にした「中露共闘」を構築しようと考えているのはまさに今の習近平政権が進める対露外交の最大の狙いとなっているのである。


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