そして、世界第三の経済大国日本が交渉参加に踏み切ったことによって、TPP交渉が実現に向けて大きく前進した。ある意味では、日本が正式に交渉参加を表明した時点で、いわば「環太平洋戦略的経済連携協定」の大勢がすでに決まったと言ってよい。歴史はこれで大きく動いたのである。
この動きはもちろん、関係諸国の対中外交、あるいはアジア太平洋地域における中国の位置づけに極めて大きな影響を与えようとしている。TPP参加予定の11カ国には中国が入っていない。というよりもむしろ、TPPは最初から中国をかやの外において始まったものである。そして、日本を始めとする多くの関係国がこの「戦略的経済連携協定」に入ると、それはまさに、中国を囲むアジア太平洋地域において中国を抜きにしての一大経済圏が出来上がったことを意味するのである。この「中国抜き大経済圏」の出現は当然、いわゆる「大中華経済圏」の膨張を周辺から封じ込めておくという深遠なる戦略的意義があるのである。
そういう意味では、少なくとも中国側の視点からすれば、「環太平洋戦略的経済連携協定」が出来つつあることは、まさに中国にとっての外交戦略上の敗北であり、アジア太平洋地域における中国の影響力の低減を意味する地政学的大変動であろう。そして日本によるTPP交渉参加の決断は、まさに中国にとってのこの歴史的大敗北を決定付けた「致命的な一撃」であるに違いない。逆に言えば、安倍政権にとって、TPP交渉参加への決断はまた、経済的意味においての「対中国包囲網」構築に向けて踏み出した大きな一歩となるのであろう。「敵方」の快進撃と自らの敗北を指をくわえて見ているしかないという、中国自身の悔しさとやり場のない怒りは相当なものだ。
そして、自らの悔しさをごまかして中国の外交的無能と失敗を国民の目から覆い隠すためには、当の中国政府はもはや、わざと「安倍が米国に冷遇された」と嘲笑したり「安倍訪米が失敗に終わった」と貶めたりするしかないのである。
つまり、「安倍の訪米は失敗」と吹聴する中国メディアの異様な論調の背後にあるのはむしろ、日本にとっての安倍外交の大いなる成功であり、安倍外交の快進撃に対して中国が対抗できなくなっているという、中国にとって大変不本意な新しい事態の発生である。
尖閣問題への影響
安倍首相の対米外交の成功は実はTPPの一件だけでなく、いわゆる「尖閣問題」で中国に対抗するための日米同盟の強化にも繋がっている。その成果は、今年に入ってから、米国政府はことあるごとに「尖閣防備への日米安保条約の適用」を強調して中国を強く牽制していることにも現れている。