休暇所得表明の心理的負担
佐々木先生 宿直メモ内の休暇取得を「□ しない」という欄について、より詳しく教えてください。この欄にチェックを入れなければ、休暇を取得する申請手続きが完了するのでしょうか?
齊藤さん いえ、この欄にチェックを入れなかった人も、その後に休暇を申請するための正式な事務手続きを行う必要があります。このチェック欄は、あくまでも休暇取得に対する本人の希望を確認することが目的です。
佐々木先生 なるほど。事務手続きの負担は変わらないのに、少しの工夫で取得日数が増えたということは、元々、休暇を取得したいという希望を表明すること自体に大きな心理的負担があったんでしょうね。
齊藤さん そう思います。宿直明けの時間帯は日勤者が多く賑やかな状況なので、その中で休暇取得を自分から希望表明することに後ろめたさを感じていたのかもしれません。
佐々木先生 ベストナッジ賞コンテストで伺ったお話で私が感動したのは、当直メモのデザイン変更を行った後、デフォルト・ナッジの導入に対する満足度調査も行われたという点でした。導入しっぱなしの組織が多い中、軌道修正やメンテナンスの機会をしっかり確保されるのは素晴らしいと思います。
齊藤さん 導入から3年たった現在も、宿直明けの休暇取得数はそれ以外の日の約6倍高いです。人事異動で部の職員の大半が入れ替わっていますが、新規の転入者も含めてこの申請制度になじんでいます。
さらに、職員それぞれの取得スタイルが根付いてきたように感じます。例えば、宿直明けからそのまま休暇に入るのではなく、少し事務仕事をしてから時間休を取得する、といったスタイルです。
佐々木先生 今後への展望はありますか?
内村さん この取り組みで働き方改革は進みましたが、小さな職場では忖度が働き、ナッジが効き過ぎるかもしれません。その日にこそ感じられるやりがいもあり、宿直明け以外に休暇が必要な職員もいます。それぞれの働き方の文脈にも寄り添えるナッジを仕掛けられないか、試行錯誤していきます。
便利で安価な暮らしを求め続ける日本――。これは農業も例外ではない。大量生産・大量消費モデルに支えられ、食べ物はまるで工業製品と化した。このままでは食の均質化はますます進み、価値あるものを生み出す人を〝食べ支える〟ことは困難になる。しかし、農業が持つ新しい価値を生み出そうと奮闘する人は、企業は、確かに存在する。日本の農業をさらに発展させるためには、農業の「多様性」が必要だ。