2022年12月3日(土)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2022年7月20日

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佐々木周作 (ささき・しゅうさく)

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授。博士(経済学、大阪大学)。専門は行動経済学・実験経済学。三菱東京UFJ銀行・京都大学特定講師、東北学院大学経済学部准教授を経て現職。一般向け書籍に『今日から使える行動経済学』(ナツメ社)等がある。

[著書]
 7月10日は第26回参議院選挙でしたが、昨今の投票率低迷を受け投票を「そっと後押し」できるアイデアを、異分野で活躍する人々が考案し、社会に実装してみる、という趣旨のテレビ番組が6月に放送されました。
 番組内では行動経済学の考え方を取り入れ、プリクラ・イベントでギャルの皆さんが要約したマニフェストを渡したり、お笑い芸人さん発案の、投票済証と餅を交換できる餅つきイベントを開催したりしました。筆者自身が監修を担当したつながりから、番組ディレクターの今氏源太さんにお話をうかがいました。
イラストレーション=石野点子 Tenko Ishino

佐々木先生:NHK番組『1ミリ革命』の制作背景を教えてください。

今氏さん:従来の報道やドキュメンタリーは、取材を重ねて社会の課題の実態を浮き彫りにしたり、視聴者に問題提起をすることが多いです。重要な役割である一方、「では具体的にどうしたらいいのか」という、その後の課題解決にはさほど貢献できていないと今回の制作チームで話し合っていました。

 時代が変わりテレビのあり方を模索する中で、課題解決にテレビを使って実際に挑んでみて、放送後にはよりよいアイデアが視聴者や有志の方々によって実践されるような、具体的な社会の変化の役に立ちたいと思い、チームで企画しました。

佐々木先生:行動経済学のナッジは、番組の趣旨とどんなふうに関係していますか。

今氏さん:ナッジの考え方は、社会の課題を「1ミリ」解決する番組の趣旨ととても親和的だと思います。投票率を上げるのは、一朝一夕には解決できない課題です。法改正をして投票を義務化したり、未投票者に罰金を科すような方法は民主主義のかたち自体を変える大きな変化で、すぐには実現できません。

 米国の社会実験で、投票日の1週間前に、過去の投票に感謝するとともに今回の投票日をリマインドする手紙を郵送することで、およそ3ポイント高くなったとの話を佐々木先生に教えてもらいました。『1ミリ革命』にもこういう発想を取り入れられたらと思いました。

 ただ、言うは易く行うは難しで、いざやり始めると、何がナッジで何がそうでないのかが分からなくなってしまいました。

佐々木先生:ナッジの条件のうちの一つが、「人間の意思決定の癖を踏まえた工夫になっているか?」というものです。投票するメリットを実感しづらい人は多いでしょう。選挙の結果、世の中が良い方向に変わっていくにしても少し先の未来のことですから、投票時点ではその変化を想像しづらい。また、1票が選挙の結果に与える影響は通常とても小さいので、それを考え出すと投票へ行くことに積極的になりにくい。

 そのような投票に少し消極的な人たちの行動を促すには、投票の直前直後など、近い時点で感じられるメリットをつくり出し、強調する必要があります。今回の投票直前に撮影できる「ギャル・プリクラ」も、投票直後に参加できる「餅つき」も、人間の意思決定の癖を踏まえた工夫になっていたと思います。

今氏さん:なるほど。

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