2022年10月2日(日)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2022年5月1日

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佐々木周作 (ささき・しゅうさく)

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授。博士(経済学、大阪大学)。専門は行動経済学・実験経済学。三菱東京UFJ銀行・京都大学特定講師、東北学院大学経済学部准教授を経て現職。一般向け書籍に『今日から使える行動経済学』(ナツメ社)等がある。

[著書]
サークルの会費の徴収に行動経済学を活用してきた、本日の困ったさん。ナッジを用いた催促メールも、時間の経過とともに徐々に効果が薄れ……
イラストレーション=石野点子 Tenko Ishino

困ったさん:長年所属している社外のテニスサークルで会計係を担当しています。毎月、口座への振り込みによってメンバーから会費を徴収するのが仕事のひとつなのですが、どうしても期限を守らない人がいました。

 『ウェッジ』で得た知識を生かし、催促メールに「大部分の人は支払いが終わっています。支払っていないのは、あなただけですよ」と他人と比較するナッジを施してみました。

佐々木先生:結果はいかがでしたか?

困ったさん:最初の頃はメール後すぐに振り込んでくれていたのですが、だんだんと効果が薄れ、そのナッジ・メッセージを添えていても再び期限に遅れるようになってしまいました。

佐々木先生:同じナッジを繰り返すことでだんだんと効果が薄れてしまう現象は、一般的に見られます。介入への反応が次第に減退していく現象は「馴化(じゅんか)」と呼ばれ、ナッジのように、報酬や罰金を伴わない中立的な介入で発生しやすいと言われています。

 ナッジだけで同じ行動を何度も促進して、習慣化される状態を達成することはとても難しいのです。ナッジの効果が持続している間に、本人が特別に意識しなくても、自然に目標行動を取れる環境に移行してもらうことが大事になります。

困ったさん:具体的な事例はありますか?

佐々木先生:例えば、節電・省エネ行動を促進するために、自分の世帯のエネルギー使用量と周囲の世帯の使用量を比較できる「ホーム・エナジー・レポート」が活用されています。

 実は、このレポートには、省エネ性能の高い家電の情報も掲載されていて、買い替えが推奨されています。省エネ意識が高まっている間に家電を買い替えることで、たとえその後に効果が薄まってしまっても、エネルギー使用量の上昇をある程度抑制することができます。

困ったさん:なるほど、ナッジによって意識が高まっているうちに、望ましい行動を継続しやすくなるステップを用意してあげるのですね。

佐々木先生:本人に毎月会費を振り込んでもらうのではなく、自動振替のように、本人が行動を起こさなくてもよい体制に移行してもらえるよう、ナッジしてみてはいかがでしょうか?

「リニューアルのお知らせ」  
『社会の「困った」に寄り添う行動経済学』は次回よりリニューアルしてお届けします。
 実際に行動経済学を活用した日本の自治体や企業などの担当者へのインタビューをもとに、実践に向けたエッセンスを探ります。ご期待ください。

 
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