困ったさん:会社の同期から今後のキャリアに関する悩みを打ち明けられたのですが、どのようにアドバイスをしたらいいのか迷っていて……。
佐々木先生:同期の方は、どのようなキャリア選択で悩んでいるのですか?
困ったさん:上司から新しい部署への異動を提案されているそうです。彼女自身、元々その部署で進めているプロジェクトに興味を持っていて挑戦したい気持ちも強いのですが、自身の経験が生かせるかどうか、自信を持てないようです。また、今の部署の仕事も充実しているため、「どちらのキャリアを選ぶべきか」と私に意見を求めてきました。
佐々木先生:それは甲乙つけがたい選択ですね。とはいえ、彼女の人生は一つですから、どちらか一方を選び取らないといけません。
行動経済学の最新の研究は、迷ったときに〝変化のある選択肢を取ること〟で、その後の幸福度が高くなる可能性を示しています。米国の経済学者が、自身の運営するホームページに「お悩み相談コーナー」を設け、次のような実験を行いました。
実験参加者はまず悩みを回答します。転職や離婚から、ダイエットの相談まで悩みはさまざまでした。続いて、参加者はコンピューター上でコイントス占いを行います。この占いは、半々の確率で「現状を維持する」か「変化する」の結果を表示しました。
困ったさん:まさに〝二者択一〟ですね。参加者の方々の、その後が気になります。
佐々木先生:参加者は単なるコイントスだと理解しながらも、実験後の行動を追跡調査したところ、コイントスの結果と一致する行動を取った人たちが多数派だったそうです。興味深いことに、コイントスの結果通りに「変化」を選んだ人たちの方が、「現状維持」を選んだ人たちよりも事後の幸福度が高く、「よりよい選択だった」と考えていることが分かりました。
困ったさん:現状維持の選択が間違いだったわけではないと思いますが、少なくとも本人が納得しているかどうかは重要ですね。
佐々木先生:そうですね。「新しい仕事に挑戦する方が『良い選択をした』と後から思えるかもしれないよ」と同期の方に伝えてみてはいかがしょう。
人は、何かを失うことを嫌がる性質を持っている。そのため、今現在やっていることをやめることにも相当の喪失感が伴うため、なかなかやめられずに現状を維持することを選択しがちだ。
変化のある方針を自力では選択しづらい私たちにとっては、コイントスの結果でさえ、ナッジ(背中の後押し)になる。信頼している友人からの後押しであれば、なおさら心強く感じられるはずだ。
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