2024年12月22日(日)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2022年3月27日

会社の同期からキャリア相談を受けた、本日の困ったさん。現状維持か変化を伴う選択か、本人の将来にとってより良い方向性とは……。
イラストレーション=石野点子 Tenko Ishino

困ったさん:会社の同期から今後のキャリアに関する悩みを打ち明けられたのですが、どのようにアドバイスをしたらいいのか迷っていて……。

佐々木先生:同期の方は、どのようなキャリア選択で悩んでいるのですか?

困ったさん:上司から新しい部署への異動を提案されているそうです。彼女自身、元々その部署で進めているプロジェクトに興味を持っていて挑戦したい気持ちも強いのですが、自身の経験が生かせるかどうか、自信を持てないようです。また、今の部署の仕事も充実しているため、「どちらのキャリアを選ぶべきか」と私に意見を求めてきました。

佐々木先生:それは甲乙つけがたい選択ですね。とはいえ、彼女の人生は一つですから、どちらか一方を選び取らないといけません。

 行動経済学の最新の研究は、迷ったときに〝変化のある選択肢を取ること〟で、その後の幸福度が高くなる可能性を示しています。米国の経済学者が、自身の運営するホームページに「お悩み相談コーナー」を設け、次のような実験を行いました。

 実験参加者はまず悩みを回答します。転職や離婚から、ダイエットの相談まで悩みはさまざまでした。続いて、参加者はコンピューター上でコイントス占いを行います。この占いは、半々の確率で「現状を維持する」か「変化する」の結果を表示しました。

困ったさん:まさに〝二者択一〟ですね。参加者の方々の、その後が気になります。

佐々木先生:参加者は単なるコイントスだと理解しながらも、実験後の行動を追跡調査したところ、コイントスの結果と一致する行動を取った人たちが多数派だったそうです。興味深いことに、コイントスの結果通りに「変化」を選んだ人たちの方が、「現状維持」を選んだ人たちよりも事後の幸福度が高く、「よりよい選択だった」と考えていることが分かりました。

困ったさん:現状維持の選択が間違いだったわけではないと思いますが、少なくとも本人が納得しているかどうかは重要ですね。

佐々木先生:そうですね。「新しい仕事に挑戦する方が『良い選択をした』と後から思えるかもしれないよ」と同期の方に伝えてみてはいかがしょう。

  ひとくちメモ   ナッジ(背中の後押し)
 人は、何かを失うことを嫌がる性質を持っている。そのため、今現在やっていることをやめることにも相当の喪失感が伴うため、なかなかやめられずに現状を維持することを選択しがちだ。
 変化のある方針を自力では選択しづらい私たちにとっては、コイントスの結果でさえ、ナッジ(背中の後押し)になる。信頼している友人からの後押しであれば、なおさら心強く感じられるはずだ。
Wedge4月号では、以下の​特集「デジタル時代に人を生かす 日本型人事の再構築」を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンでお買い求めいただけます。
■デジタル時代に人を生かす 日本型人事の再構築
 Part 1  揺れる日本の雇用環境 人事改革は「人」と組織を生かせるか 編集部
 Part 2  「人」の成長なくして企業の成長なし 人事制度改革の将来像
鶴 光太郎(慶應義塾大学大学院商学研究科 教授)
 Part 3  自ら学び変化する人材を企業人事はどう育てるのか
中原 淳(立教大学経営学部 教授)
 Part 4  過熱するデジタル人材争奪戦 〝即戦力〟発想やめ自社育成を 編集部
Column 1 迫る〝2025年の崖〟 企業は「レガシーシステム」の刷新を
角田 仁(千葉工業大学 教授・デジタル人材育成学会 会長)
 Part 5  技術継承と効率化の鍵握る人間とデジタルの「役割分担」 編集部
Column 2 100分の1ミリで紡ぐ伝統 知られざる貨幣製造の裏側 編集部
 Part 6  「米国流」への誤解を直視し日本企業の強み生かす経営を
冷泉彰彦(作家・ジャーナリスト)
Column 3 全ビジネスパーソン必読!「対話不全」への処方箋
田村次朗(慶應義塾大学法学部 教授、弁護士)
 Part 7  根拠なき日本悲観論 企業に必要な「コンセプト化」の力
岩尾俊兵(慶應義塾大学商学部 准教授

◇◆Wedge Online Premium​(有料) ◆◇

 
Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。
Wedge 2022年4月号より
日本型人事の再構築
日本型人事の再構築

日本型雇用の終焉─。「終身雇用」や「年功序列」が少子高齢化で揺らぎ、働き方改革やコロナ禍でのテレワーク浸透が雇用環境の変化に拍車をかける。わが国の雇用形態はどこに向かうべきか。答えは「人」を生かす人事制度の先にある。安易に“欧米式”に飛びつくことなく、われわれ自身の手で日本の新たな人材戦略を描こう。


新着記事

»もっと見る