2024年4月25日(木)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2022年6月30日

 東日本大震災の後、要介護認定者や重度障害者の避難行動支援を目的とし、その人たちの住所などが記載された名簿の作成が市町村に義務付けられました。
 つくば市では、平時から名簿を活用して支援準備をするための意向確認書を要支援者の方に郵送しても、返送率が低いことが課題になっていました。
 つくば市役所の統計・データ利活用推進室の金野理和さんと福祉部社会福祉課(当時)の國府田悠葵さんは、意向確認書の返送率をもっと高められないかと考え、〝ナッジ〟を活用した取り組みを実施しました。
イラストレーション=石野点子 Tenko Ishino

佐々木先生:恥ずかしながら、私は「避難行動要支援者名簿」の存在を初めて知りました。

國府田さん:この名簿は、災害発生後に民生委員などの支援者に共有され、避難支援に活用されますが、発生後の共有では必要な支援を届けられない可能性があります。同意取得によって平時からの名簿共有が可能になれば、要支援者の場所とハザードマップを照らし合わせて、避難支援で回るルートを事前に確認するなど、入念な準備ができるようになります。

金野さん:茨城県つくば市では、私たちの部署が中心となって「ナッジ勉強会」を立ち上げました。所内に呼びかけ、最初の頃に手を挙げてくれたのが、國府田さんたちでした。

佐々木先生:今回のナッジの活用事例は、現場を知る自治体職員だからこそ発想できたもので、私のような研究者だけでは見逃してしまいそうだと感じています。

 平時からの名簿共有の同意を目的に、要支援者の方に郵送で意向確認書の提出を依頼しても、これまで返送率が低かったそうですが、なぜだと思われますか?

國府田さん:そもそも、この制度が対象者の方やご家族の方にあまり知られていないことが一因だと思います。例えば、要介護認定や身体障害者手帳の手続きで、市と要支援者ご本人やご家族の方と直接お話できる場面でも、あまり説明されていないのが現状です。郵送物を受け取って初めて制度について知る方も多いと思います。

佐々木先生:今回の取り組みでは、情報共有を希望する人には「同意する」、希望しない人には「同意しない」という意向をきちんと返信してもらえるよう、封筒に貼る宛名シールの下部にメッセージを印字する方法を採用されました。追加費用がほとんど必要ないですね。

封筒に貼る宛名シール下部に
ナッジを活用したメッセージを印字した

(出所)つくば市政策イノベーション部 統計・データ利活用推進室 写真を拡大

金野さん:現場の負担を小さくすることは、他部署と連携してナッジの政策活用を進める時には重要です。

 3種類のメッセージ「○年○月○日までにご返送ください」「○○さまに大切なお知らせです」「避難支援を受けられる可能性があります」の効果をそれぞれ測定しました。準備段階では、「○○さまに~」のパーソナライズ案が一番効果的との予想でしたが……。


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