2024年4月17日(水)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2022年6月30日

佐々木先生:実際には、返送期限を明示する動作指示メッセージに効果があったそうですね。

返送期限を封筒に明示する
「動作指示」が最も効果が高かった

(出所)つくば市政策イノベーション部 統計・データ利活用推進室
(注)「動作指示」は有意差あり、「パーソナライズ」「利得」は有意差なし

國府田さん:今回の結果を受け、行政の郵送物に「返信が必要なものがある」と認識している市民が少ないのではないかという視点を持つことができました。郵送する行政の側としては、「目立つ説明がなくても返信が必要だと市民はすぐに気づくはずだ」と思い込んでいたのかもしれません。

佐々木先生:興味深いですね。「情報を冷静に処理し自分の目的にかなった行動を取ることをヒトは常に実行できるわけではない」という行動経済学の人間像とも重なります。

 結果が事前の予想と違った点も重要です。もし複数のメッセージの効果を測定する試行をしていなかったら、本当は効果がないメッセージを直感で採用していた可能性がありますよね。EBPMとして適切な進め方だと思います。

金野さん:今回の取り組みの後、効果が確認できた動作指示メッセージを全体に展開して、意向確認書の返送率を6~7割まで高めることができました。同意する人の比率も、対象者全体の5割に近い水準まできています。

佐々木先生:将来に向けた取り組みも教えてください。まずは同意があると見なして、情報共有を希望しない場合に申し出てもらう「オプトアウト形式」を検討する自治体もあると聞きます。

國府田さん:つくば市では、郵送の依頼をベースにしながら、災害リスクが高い地域に居住している対象者から個別訪問して意向を確認するなど、複数の方法を組み合わせて進める計画です。

 オプトアウト形式だとすでに自治体が持っている住所情報しか共有されませんが、寄り添った避難支援のためには、連絡先や同居者の有無なども追加情報として教えてもらう必要があります。いずれにせよ、対象者の方と事前にコミュニケーションを取りながら進めることが大事です。

佐々木先生:地に足のついた取り組みに、ナッジの考え方がどんな風に取り入れられているのかが具体的に理解でき、勉強になりました!

※筆者の連載「社会の『困った』に寄り添う行動経済学」は、WEB版で詳しくご覧いただけます
 ひとくちメモ  「EBPM」
 Evidenced-based Policy Makingの略称で、エビデンス(証拠)に基づく政策立案の意味。新しい政策上の工夫を全面展開する前に、小規模な試行でその工夫の効果を検証することが重要である。
 ナッジ活用を適切に進めるには、EBPMのような方法論について学ぶ機会や時間的余裕を確保することも必要だ。
 
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