2022年6月30日(木)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2022年5月28日

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佐々木周作 (ささき・しゅうさく)

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授。博士(経済学、大阪大学)。専門は行動経済学・実験経済学。三菱東京UFJ銀行・京都大学特定講師、東北学院大学経済学部准教授を経て現職。一般向け書籍に『今日から使える行動経済学』(ナツメ社)等がある。

[著書]
 年4回の納付義務がある「固定資産税」は、納税者の失念などから支払いが遅れ、督促状の発送や滞納整理といった行政側のコストが発生しやすいと言われています。横浜市戸塚区では、納税者側の納付手続き簡略化と行政側の負担軽減の2つを目的に、〝ナッジ〟を活用して、口座振替納付を推奨しました。
 担当した横浜市戸塚区役所税務課の川﨑利雄課長と、ナッジ導入をサポートした三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)の小林庸平さんに、その経緯や成果についてお話を伺いました。
イラストレーション=石野点子 Tenko Ishino

佐々木先生:行動経済学の知見に基づき行動変容をそっと後押しする、ナッジを活用するに至った経緯を教えてください。

川﨑課長:戸塚区を含む横浜市では、ナッジを熱心に勉強している有志の職員が増えています。彼らと一緒に、自分たちの業務への活用を検討しました。税金関連の行政文書は法律で文言が決められているものが多い一方で、口座振替の勧奨はそうした制約がなく、区が独自に実施できる余地もあるので、表現の工夫ができると思いました。

小林さん:ナッジの効果は短期的で時間が経つと小さくなることも多いため、納税という行動自体をナッジで何度も促進することは難しい可能性があります。しかし口座振替は一度手続きをしてしまえばその後の支払いが自動化され、行動変容を繰り返し促す必要がなくなるので、ナッジの活用に適していると思いました。

佐々木先生:ナッジだけで習慣化させるのは至難の業なので、一度行動を起こしてもらえれば十分な場面に着目するのは重要ですね。

 固定資産税は、その他の公共料金などと比べても口座振替率が低いそうですね。

川﨑課長:国民健康保険料や水道料金の口座振替率に比べて、ずいぶんと低くなっています。健康保険料や水道料金などは毎月や隔月払いなので、口座振替を利用することの便利さを実感しやすいのでしょう。固定資産税は年4回払いなので、それぐらいの回数なら都度の支払い手続きをしようと考えるのかもしれませんね。

小林さん:健康保険料や水道料金は引っ越しのタイミングなどで申し込みの手続きがあるので、そのときに支払い方法も検討しますよね。固定資産税は、資産を取得したら、前触れもなく1年に1回の納税通知書が送られ、それに基づいて四半期に1度、自身で納付手続きをしなければならず、行政から案内される機会や支払い方法を検討する機会が少ないのだと思います。

佐々木先生:なるほど。行政と支払者との接点が少ないことも、口座振替が進まなかった理由の一つですね。

 どのような形でナッジを活用したのでしょうか?

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