小林さん:口座振替を勧奨するチラシの紙面を工夫しました。横浜市のアンケートから、「手続きが複雑・面倒と思っていること」が口座振替の進まない大きな理由であることが分かったので、チラシ紙面では、必要な手続きをわずか3ステップで提示することで意外に簡単だと感じてもらえるような工夫を施したり、先延ばしを防ぐために「締め切り」を目立つ形で明示したりしました。
また口座振替の申込書には固定資産ごとに付与されている「所有者コード」を記入する必要があるのですが、チラシと一緒に所有者コードも送付することで手続きを簡便化させました。
口座振替のチラシ案内にナッジを活用
佐々木先生:ふだんの役所からの通知文は、大切な情報と共にいろいろな情報が添えられていて、文字が細かく読みづらいことが多いと感じます。一方、今回のナッジ版は、シンプルでとても見やすいです。
感染対策上のメリットも強調されていますね。
川﨑課長:感染リスクを抑えるため、確定申告でe-Taxや郵送申告の利用が推奨されていたので、そこから発想しました。
佐々木先生:今回の結果やその後の反響はいかがでしょうか?
小林さん:文言や表現を工夫するナッジの効果は+5㌽程度と思っていたので、それくらいは目指したいと考えていました。
結果的に、ナッジ版の申込率は17.2%でした。同時期に送付した通常版(8.4%)の2倍以上、+8.8㌽だったので、非常に驚いています。
申し込み率が通常チラシの2倍以上に
川﨑課長:金融機関やコンビニの減少とともに、直接支払うことができる窓口も減っている、地方部の自治体などからたくさんの問い合わせを頂きました。固定資産税だけでなく、その他の税目や国民健康保険料の納付などへの活用を検討しているところもあるようです。
佐々木先生:口座振替率が高まることで、未納率が減って督促費用などが節約されるので、政策的な意義は非常に大きいと思います。ほかの口座振替の利用率が低いトピックでも応用できそうなので、お二人の着眼点や考え方を参考にした取り組みが広がるとよいですね。
ナッジ作成時に考慮すべき4大原則を「EAST(イースト)」と呼ぶ(「Easy:簡単に」「Attractive:印象的に」「Social:社会的に」「Timely:タイミングの重要さ」)。中でも重要なのが、「Easy」で、不安から情報や工夫をたくさん追加してしまうと肝心なメッセージが埋もれてしまい、ナッジの効果が失われてしまう。
日本企業の様子がおかしい。バブル崩壊以降、失敗しないことが〝経営の最優先課題〟になりつつあるかのようだ。しかし、そうこうしているうちに、かつては、追いつけ追い越せまで迫った米国の姿は遠のき、アジアをはじめとした新興国にも追い抜かれようとしている。今こそ、現状維持は最大の経営リスクと肝に銘じてチャレンジし、常識という殻を破る時だ。