2023年2月8日(水)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2022年11月29日

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佐々木周作 (ささき・しゅうさく)

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授。博士(経済学、大阪大学)。専門は行動経済学・実験経済学。三菱東京UFJ銀行・京都大学特定講師、東北学院大学経済学部准教授を経て現職。一般向け書籍に『今日から使える行動経済学』(ナツメ社)等がある。

[著書]
 現在、ナッジなどの行動経済学の知見を政策に活用する動きが世界各国に広がっています。日本でも、環境省主導のもと、17年に「日本版ナッジ・ユニット」という横断型組織が発足しました。連絡会議が開催されており、環境省以外の府省庁とともに地方自治体の職員や、大学などの研究機関に所属する研究者らが参加しています。
 今回は、「日本版ナッジ・ユニット」の立ち上げ人である、環境省ナッジ戦略企画官の池本忠弘さんにお話を伺いました。
イラストレーション=石野点子 Tenko Ishino

佐々木先生:池本さん自身は、どのような経緯でナッジを知ったのですか?

池本さん:留学先のハーバード大学公衆衛生大学院の授業で、イチロー・カワチ先生から、健康・医療の分野でナッジがどのように活用されているのかを教わりました。

 ナッジは、人々が意思決定をするときの環境をうまくデザインして、理想的な行動の実行を後押しするものです。健康・医療だけでなく、環境・気候変動対策など、さまざまな分野で活用できるのではないかと思いました。

佐々木先生:日本では、まず、どのような事業に取り組まれたのですか?

池本さん:「ホーム・エナジー・レポート」の省エネ効果を検証する実証事業を、日本全国のエネルギー事業者と一緒に始めました。

佐々木先生:世界的に有名な省エネ・レポートですね。自分の世帯のエネルギー使用量と近隣世帯の使用量が比較できるグラフが載っています。自分が使い過ぎている場合は「周りと同じように省エネしないと」と思えるようなデザインです。

 米国の研究では「レポートを受け取った世帯は使用量を平均2%削減した」と報告されていました。日本の結果はいかがでしたか?

池本さん:日本でも、同じく2%の削減効果が確認できました。

 また日本の事業では、レポートを平均で2カ月に1回のペースで継続的に送付する条件下で、2年間、削減効果が持続するという結果が得られました。さらに、送付終了後の3年目も、削減効果が一定程度残っていることが分かりました。

佐々木先生:それは3つの点で驚きです。まず、一般的に、ナッジの効果は国や文化で異なりうるのですが、日本においても米国の研究と同程度の効果が観察された点です。

 次に、情報を提供するナッジの効果はだんだんと減退すると言われていますが、効果が持続した点です。

 最後に、ナッジを中止すると効果も消失することが多いのですが、今回の実証事業では効果が残っている可能性がある点です。

池本さん:はい、私にとっても嬉しい驚きでした。一方で、ホーム・エナジー・レポートの効果は、過去に10カ国以上で再現されているそうですよ。

 実証事業で用いたレポートには、比較のグラフの他に、家電の買い替えなどの省エネ・アドバイスも掲載されているので、それらの要素が習慣化に貢献したのかもしれません。


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