2022年11月28日(月)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2022年10月28日

»著者プロフィール
閉じる

佐々木周作 (ささき・しゅうさく)

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授。博士(経済学、大阪大学)。専門は行動経済学・実験経済学。三菱東京UFJ銀行・京都大学特定講師、東北学院大学経済学部准教授を経て現職。一般向け書籍に『今日から使える行動経済学』(ナツメ社)等がある。

[著書]
  育児・介護休業法が改正され、2022年4月より、育児休業取得に関する周知・意向確認が企業に義務化されています。また、10月には「産後パパ育休(出生時育児休業)」など、新たな制度も創設されました。
 育休を取得しやすい環境整備に向け企業だけでなく各自治体も苦心していますが、千葉市では、法改正以前から独自の取り組みを進めてきました。20年度の男性職員の育休取得率は92.2%に上るといいます。千葉市給与課の石井明宏さんにお話を伺い、千葉市の取り組みの行動経済学的な特徴を整理しました
イラストレーション=石野点子 Tenko Ishino

佐々木先生:千葉市の男性職員の育休取得率は、2013年度の時点では2.2%だったと聞きました。それが最近は90%を超える年度もあります。どういう取り組みをされてきたんでしょうか?

石井さん:当時、市長から職員に対して呼びかけるとともに、全ての所属長を「イクボス」に位置づけ、研修を実施するなど、育休取得の重要性を伝えました。この取り組みにより、16年度の取得率が12.6%まで上がりました。

 その後「育児休業の取得予定調査」を導入したことで、男性職員の育休取得率は、17年度は28.7%、18年度は65.7%、19年度は92.3%と順調に上がっていきました(下図参照)。

千葉市は、男性職員の育休取得率を大きく伸ばした

(出所)千葉市 写真を拡大

 仕組みとしては、部署に育休取得対象の職員がいる際に、本人ではなくその部署の所属長に育休取得予定を確認し、取得しない場合はその理由を所属長から報告してもらうというものです。

佐々木先生:「取得しない理由の調査」のお話は、新聞などのメディアを通じて知りました。育休を取得することを前提にしているので、デフォルト(初期設定)の工夫の例として行動経済学者の間で注目されています。

石井さん:よく誤解されるのですが、対象職員に直接聞き取り調査をするのではなく、所属長に対して実施したものです。

佐々木先生:その点は私も誤解していました。所属長を対象にした意図は、どういうものなのでしょうか?

石井さん:所属長にマネジメント力を発揮して、育休取得しやすい職場環境に変えてもらいたいという意図があります。

 取得率は部門ごとに集計され、共有されます。「取得しない理由の調査」をきっかけに、所属長の意識が「どうしたら対象の職員が育休を取得できるのか」という方向に向き、業務分担などの必要な調整を先導して動いてもらうことを期待しました。

佐々木先生:なるほど。この聞き取り調査自体、上司である所属長が、部下である職員の育休取得にアクティブに関わっていくための仕掛けになっているんですね。仮に対象の職員に直接調査していたら、上司や同僚に遠慮して「取得しない理由」がたくさん出てきてしまうだけで、取得率の向上にはつながりにくかったかもしれません。

 行動経済学にも、対象者本人に直接介入するのではなく、対象者とコミュニケーションを取る人に介入することで、効果を大きくしようと試みる研究があります。それと似た構造だと思いました。

 この聞き取り調査は、今も継続されているんでしょうか?

新着記事

»もっと見る