2024年4月27日(土)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2022年10月28日

石井さん:調査は19年度で終了しています。代わりに20年度からは「新パパママ計画書」などの作成に切り替わっています。

佐々木先生:それはどういう取り組みなのでしょうか?

石井さん:「イクボスのための職員の子育て応援チェックリスト」と男性職員用の「休暇取得計画書」の2つで構成されています。育休を取得することを前提に、所属長が対象職員と面談して、チェックリストの項目に従いながら、育休に加えて出産日前後の休暇をどの日程で取得していくかを決めていく、というやり方です。変更後の20年度の取得率も、92.2%と高水準を維持しています。

千葉市では、「子育て応援チェックリスト」
を通じて上司と部下のコミュニケーション
を促している

佐々木先生:なるほど。職員の育休取得に対し、所属長がどのように関与していくかが課題の一つですが、チェックリストが所属長にとってのガイドになっているんですね。
 確かに、「取得しない理由の調査」だと、所属長と対象職員の間でどういう話し合いが行われるかは、人や部署によって違ってきます。それを、コミュニケーション・ツールを指定する方法に改良されたんですね。

石井さん:その通りです。

佐々木先生:プロトタイプ的な試みを、洗練された仕組みに昇華されていて素晴らしいです。千葉市の取り組みは、これまで「取得しない理由の調査」が注目されてきましたが、他の部分も含めて全体像を学んでまねしていただきたいです。今後の目標や課題はありますか?

石井さん:育休の取得率は高いのですが、取得日数は1週間未満の人が多数派です。次は、取得日数を延ばすのが目標です。

佐々木先生:今回の取り組みの特徴は、所属長がポジティブな姿勢で職員のライフプランに関与できるフォーマットを作るというものだったと思います。新しい課題の解決に向けても参考になりそうです。

 ひとくちメモ 
「働きかける対象」

 エンドユーザーに大きな影響を与える人物に働きかけ、間接的にエンドユーザーに影響を与えることで、介入効果を大きく、長期的にしようとする試みがある。
ある研究では、患者本人に働きかけて行動変容を継続させるのは難しいため、医師や看護師への介入を通じて患者にアプローチする方法が検討されている。
※筆者の連載「社会の『困った』に寄り添う行動経済学」は、WEB版で詳しくご覧いただけます
 
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