今回は、ナッジの観点からこの課題の解決に挑戦された、京都市都市計画局歩くまち京都推進室(当時)の池島博幸さんと、京都市のナッジ導入をサポートされた、NTTデータ経営研究所の小林健太郎さんにお話を伺いました。
佐々木先生:タクシー乗り場以外の場所で、タクシーが違法に客待ちをするという課題の解決に向けて、どのように取り組んでいったのでしょうか?
池島さん:当初は、タクシーの乗務員がそのルールを守らないことが原因だろう、と考えていました。タクシー会社の乗務員を対象に10年以上アンケート調査を行ってきましたが、実際、最初の頃はルールを正確に把握できていない人が一定数存在していました。アンケートを続けることで、乗務員の意識は高まっていったのですが、それでも、違反はなくなりませんでした。
小林さん:阻害要因を、乗務員個人の要因と環境要因に分けて整理したところ、乗務員だけでなく、タクシーの利用者の意識が大きく影響している可能性が見えてきました。
佐々木先生:どういうことでしょうか?
小林さん:利用者が、交差点や横断歩道上でタクシーが駐停車してはいけないことを意識していないので、実際そういった場所でタクシーを拾おうとする。そうすると、乗務員も頭ではルールを理解しているけれど、利用者に応じてその場所で乗せてしまう、ということです。
佐々木先生:なるほど。
池島さん:観光客を含む利用者の方々に前もって啓発し、意識を変えてもらうことは簡単ではありません。タクシーを拾う直前に、タイムリーに働きかけるナッジが必要だと考えました。
佐々木先生:そこで、今回の看板に行きつくわけですね。
この看板は、ナッジとしてとてもユニークな特徴を持っています。一つの対象のみに介入するナッジが一般的ですが、この看板は、表面は乗務員に、裏面は利用者に、同時に働きかけるものですね。
一つの看板の表と裏で、
タクシー乗務員と利用者の双方に働きかける
小林さん:目のマークを掲示すると、人に見られている意識が働いて協力行動が促進される、という研究の結果から着想していきました。一つの工夫だけでは弱いのではないかと話していたところ、池島さんが、看板に窓をつけるアイデアを提案されたんですよね。
池島さん:旅行先でたまたま窓付きの看板を見かけて、面白いと思ったんです。高さを調整することで、看板の窓を介して歩道の利用者と、タクシーの乗務員の目線がちょうど合うようになることが分かりました。