2024年11月18日(月)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2022年9月24日

 道路交通法で、交差点内・横断歩道・バス停の付近で駐停車することは禁止されています。しかし、京都市内では、交差点や横断歩道上でタクシーが違法に客待ちをしたり、タクシー乗り場からはみ出して停車してバスの進行を阻害したりする光景が、日常的に見られました。
 今回は、ナッジの観点からこの課題の解決に挑戦された、京都市都市計画局歩くまち京都推進室(当時)の池島博幸さんと、京都市のナッジ導入をサポートされた、NTTデータ経営研究所の小林健太郎さんにお話を伺いました。
イラストレーション=石野点子 Tenko Ishino

佐々木先生:タクシー乗り場以外の場所で、タクシーが違法に客待ちをするという課題の解決に向けて、どのように取り組んでいったのでしょうか?

池島さん:当初は、タクシーの乗務員がそのルールを守らないことが原因だろう、と考えていました。タクシー会社の乗務員を対象に10年以上アンケート調査を行ってきましたが、実際、最初の頃はルールを正確に把握できていない人が一定数存在していました。アンケートを続けることで、乗務員の意識は高まっていったのですが、それでも、違反はなくなりませんでした。

小林さん:阻害要因を、乗務員個人の要因と環境要因に分けて整理したところ、乗務員だけでなく、タクシーの利用者の意識が大きく影響している可能性が見えてきました。

佐々木先生:どういうことでしょうか?

小林さん:利用者が、交差点や横断歩道上でタクシーが駐停車してはいけないことを意識していないので、実際そういった場所でタクシーを拾おうとする。そうすると、乗務員も頭ではルールを理解しているけれど、利用者に応じてその場所で乗せてしまう、ということです。

佐々木先生:なるほど。

池島さん:観光客を含む利用者の方々に前もって啓発し、意識を変えてもらうことは簡単ではありません。タクシーを拾う直前に、タイムリーに働きかけるナッジが必要だと考えました。

佐々木先生:そこで、今回の看板に行きつくわけですね。

 この看板は、ナッジとしてとてもユニークな特徴を持っています。一つの対象のみに介入するナッジが一般的ですが、この看板は、表面は乗務員に、裏面は利用者に、同時に働きかけるものですね。

一つの看板の表と裏で、
タクシー乗務員と利用者の双方に働きかける

(出所)京都市、NTTデータ経営研究所

小林さん:目のマークを掲示すると、人に見られている意識が働いて協力行動が促進される、という研究の結果から着想していきました。一つの工夫だけでは弱いのではないかと話していたところ、池島さんが、看板に窓をつけるアイデアを提案されたんですよね。

池島さん:旅行先でたまたま窓付きの看板を見かけて、面白いと思ったんです。高さを調整することで、看板の窓を介して歩道の利用者と、タクシーの乗務員の目線がちょうど合うようになることが分かりました。


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