2024年6月16日(日)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2022年9月24日

佐々木先生:乗務員側の面だけでなく、利用者側の面にも目のマークを掲示して、監視されている雰囲気を演出する方法もあったと思いますが、それだと嫌な気持ちになって、協力したくなくなる人もいるかもしれません。

 利用者側の面には「この窓から見えるタクシーは、違法停車中です」というメッセージを掲示して、ルールが守られているかどうかチェックする役割を担ってもらうことを通じて、利用者に働きかけているところが、上手だと思いました。

 それにしても、すごく大きな効果です。

池島さん:2022年の2月に実証実験を行ったところ、実験前は2時間当たり約46分だった違法停車の合計時間が、看板の設置後にはわずか5分になりました。率でみれば88%の減少で、われわれもとても驚きました。

看板の設置後、タクシーの違法停車が
約9割減少した

(出所)京都市、NTTデータ経営研究所
(注)2時間当たりの合計違法停車時間。減少率は小数点以下切り捨て

佐々木先生:効果は持続しそうでしょうか?

小林さん:京都市内のタクシー乗務員は看板を見慣れていくので、乗務員への効果は段々と小さくなるかもしれません。

 一方で、利用者は観光客の方も多く含まれるので、観光で京都を訪れたときに初めて看板を見る人も多い。観光客への効果は一定程度持続するのではないか、と期待しています。

佐々木先生:アンケート調査や啓発活動などの過去の取り組みから、ルールに対する乗務員側の認識や理解が高まっているというお話だったので、乗務員への効果も完全に無くなるということはないかもしれませんよね。

 過去の取り組みによる素地があるからこそ、今回のナッジが効果を発揮しているように感じました。

池島さん:同感です。行政の現場で、過去の取り組みとは異なる、新しい方法を採るには勇気が必要でしたが、結果的にこれまでの取り組みと新たな取り組みの相乗効果が確認できてほっとしています。

佐々木先生:ナッジは、多角的な視点で現状の課題分析をした上で、介入を微調整していく方法なので、行政の現場でも挑戦しやすいものだと思います。

 ひとくちメモ 
「ナッジの不快感」

 周りの人と比較するナッジや、損失を強調するナッジは、閲覧する人に不快感を生じさせうる。1度目は素直に受け取って行動を変えても、2度目以降は閲覧をやめ、行動を変えない可能性がある。
 また、反発から他の場面で協力しなくなる場合もあるため、不快感を与えないように配慮してナッジを設計するべきだ。
※筆者の連載「社会の『困った』に寄り添う行動経済学」は、WEB版で詳しくご覧いただけます
 
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