2023年2月8日(水)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2022年12月27日

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佐々木周作 (ささき・しゅうさく)

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授。博士(経済学、大阪大学)。専門は行動経済学・実験経済学。三菱東京UFJ銀行・京都大学特定講師、東北学院大学経済学部准教授を経て現職。一般向け書籍に『今日から使える行動経済学』(ナツメ社)等がある。

[著書]
 警察庁の関東管区警察局静岡県情報通信部では、宿直明けに提出する当直メモのうち、当直者の名前を記入する欄の右隣に、休暇取得を「□ する」ではなく「□ しない」という欄を設定するという「デフォルト・ナッジ」を活用して、宿直明けの休暇取得数を増やすことに成功されました。
 今回は、静岡県情報通信部在籍当時にナッジ活用を先導された内村契嗣様と、現在、それを引き継がれている齊藤文信様に導入のきっかけやその後の効果などを伺いました。
 

佐々木先生 デフォルト・ナッジで宿直明けの休暇取得促進に成功された事例は、ナッジの実践に関わる人たちの間でとてもよく知られています。内閣人事局長賞を受けられたとともに、行動経済学会と環境省が共催するベストナッジ賞も受賞されましたよね。

 このナッジでは「休暇取得の希望があること」が初期設定(デフォルト)になっていて、希望がない場合にのみチェックを入れればよく、取得しようとする心理的負担を下げるものになっています。

 導入の背景について教えていただけますか?

内村さん 私たちの部署は、情報通信システムの整備や運用、災害や事故発生時の通信手段の確保、犯罪に使用された通信機器の解析などの仕事を行っています。警察全体では社会の流れに対応して働き方改革が随分と進んでいますが、静岡県情報通信部は通信障害への対応など突発的な業務も多く、計画的な休暇取得があまり進んでいませんでした。

 宿直明けにそのまま日勤に入っても集中力を維持しづらいので、車両の運転が伴う仕事は割り当てられません。年間17日の休暇を取得しようという目標設定もあったので、まずは宿直明けの休暇取得を積極的に検討してもらうための取り組みを始めました。

佐々木先生 どのような取り組みからスタートされたのでしょうか?

内村さん 当直メモには決裁者の押印欄があるのですが、押印欄の「課長」などの肩書名を「宿直明け休暇取得推進担当官」と書き換えてみました。当直者に対応する管理者に休暇取得を積極的に勧めてもらいたいという期待を名称に込めたのです。

 同時に、「宿直明けには休暇を取得しましょう!」というメッセージも当直メモに記載しましたが、これらの工夫に効果があったようには思えませんでした。

佐々木先生 その後、デフォルト・ナッジを着想されたんですね。

内村さん はい。携帯電話の契約などで、チェック欄(□)における初期設定の違いによって自らの選択が大きく変わってしまうことを、実体験として感じていました。不要なサービスへの加入を促してしまうのは好ましくないですが、その仕組みを正しく応用すれば、休暇を取得したい人の申請を後押しできるかもしれないと考えました。


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