2024年4月24日(水)

ひととき特集

2013年8月20日

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 新生・外宮前。その流れを先頭で引っ張る店が「伊勢せきや」だ。外宮参道で昭和32(1957)年から海鮮珍味を扱ってきた同店が、昨年暮れ、外宮前角地に移転、リニューアル。2階に食事処「あそらの茶屋」をオープンした。

「姿煮あわび釜飯」は柔らかく煮上げたあわびを惜しげもなく使っている

 店で出すごはんに使われている「イセヒカリ」という品種は、平成元(1989)年、度重なる台風で壊滅状態となった神宮神田で奇跡的に残った稲株を、後にせきやが契約農家のもとで大切に増やしてきたという。店ではこの“幻”のお米を、朝はお粥で、昼は釜飯で味わうことができる。

 自慢の「姿煮あわび釜飯」をいただく。背筋が伸びるような正目の檜盆には、炊きたての釜飯とともに、珍味や旬の総菜が盛られた小皿が並ぶ。この「ちょっとずつ、いろいろ」に、女性は弱い。あわびと鰹(かつお)、ふたつの出汁で炊かれた釜飯は実に優しい味。1杯目はそのまま、2杯目は珍味とともに、最後はあわびの風味が染みているおこげをしっかりこそぎ取るべし。

 店は内装も趣深い。拭き漆仕上げの柱、格天井(ごうてんじょう)、建具のひとつにまで、伊勢の匠の技が光る。今はまだ眩いほどに新しい白木の館が、次の20年でどのような風格を備えていくのか、記憶に刻んでおきたい。

●あそらの茶屋
伊勢市駅から徒歩約5分
伊勢市本町13─7
☎0596(65)6111
営業時間/朝かゆ7時30分~9時30分、昼げのしたく11時~14時30分、カフェは7時30分~17時
年中無休
・せきや本店の2階にある。1階では参宮あわびや、熨斗(のし)あわび、子持ちしぐれなどの珍味、お米、お菓子など伊勢みやげが購入可能
http://www.sekiya.com/

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 外宮さんを背に、北東へ歩くこと10分。勢田川沿いに広がる河崎のまちは、かつて舟運で栄えた歴史を持つ。日本各地から参拝客用の物資が集まり、また志摩国の産物の積み出し港として機能したことから、ついた呼び名が“お伊勢さんの台所”。往時のまま残されていた町家や蔵に、近年、飲食店やショップがオープン、“台所”がふたたび息を吹き返し始めた。今や知る人ぞ知る伊勢の観光スポットだ。

「本日の手こね寿司」。左側の「とうもろこしの天ぷら」は、しゃきしゃき感がくせになる一品

 築120年の石蔵に店を構えるのは、居酒屋「虎丸(とらまる)」。開店から18年。一貫して魚にこだわってきた。養殖・冷凍は使わない。「最低でもお造りが7種類は揃わないと店は開けないと決めています」と店主の大西秀樹さん。少々強面だが、自らも釣り人ゆえ、口を開けば魚への愛があふれだす。

 「地の魚が食べたくてうちに来たんだろうから」と振る舞われたのは手こね寿司。「もとは船上料理。その日に獲れた魚で作るのが本当で、鮪(まぐろ)なんて、“ウソ”だからね」とチクリ。鰹の腹身、はまち、鯵(あじ)、すずき、穴子が、今日の手こね。明日になればまた違う。それが「虎丸」の流儀である。


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