ニューヨークに拠点を置くグローバル・マクロ・ファンドCryptos Global Investments の支配人、スタインとヴァッシレフが、8月6日付でDiplomat誌ウェブサイトに掲載された論説で、日本のTPP参加と経済的復活は、米国のアジア戦略にとって必要不可欠であるから、アベノミクスを支持するためのあらゆる努力をすべきであり、アベノミクスが失敗すれば、世界経済と米国のアジア戦略に破壊的影響を与えかねない、と述べています。
すなわち、日本のTPP参加は、米国のアジアにおける戦略的パワーを長期間持続可能にさせる。そして、日本の経済的復活が無ければ、アジアは米国から益々離れ、中国の経済的・戦略的軌道に飲み込まれてしまうであろう。日本のTPP参加は、アジア太平洋の政治的・軍事的同盟を下支えし、経済的な対中封じ込めとして働き、米国のアジア回帰に不可欠である。
中国の影響力は、圧倒的に経済に由来しているが、米国は、これまで、アジア太平洋における経済的梃子をあまり持っていなかった。日本を含むTPPが実現すれば、加盟国間での貿易が活発化し、加盟国の対中依存度を低下させ、米国のアジア政策の経済的側面を補強することになる。中国は、TPPのメンバー国の多くと既にFTAを調印し、あるいは、調印を目指している。したがって、日本のTPP参加は、自由貿易ゲームにおける、米国の巻き返しにもつながる。
米国のアジア戦略は日本の経済的復活に依存し、日本の経済的復活は安倍総理の「三本の矢」にかかっている。政治的には、安倍総理は、アベノミクスの第三の矢に当たる構造改革を進めるための道具として、TPP交渉に頼っている。
日本の国内政治は、TPPの成否を益々左右することになろう。米国とその同盟国の政策立案者は、安倍総理の改革プログラムを支持する、あらゆる努力をすべきである。日本は、農業に関する関税を、長時間かけて漸減させることを許されるべきである。そうすることで、日本のTPP参加取りやめに繋がりかねない、自民党内の反乱を防ぐことにもなるであろう。改革の痛みが続く間、円安政策を容認することは、日本の輸出を下支えし、鎮痛剤として役に立つであろう。
アベノミクスが失敗すれば、日本の構造改革は行き詰り、日本が復活する希望も失われ、グローバルな不安定をもたらしかねない。二つの憂慮すべきシナリオがある。第一に、改革が実行されなければ、大規模な金融緩和と財政出動が相俟って、高インフレ、低成長、失業率増という、スタグフレーションをもたらすかもしれない。第二に、日本はGDPの230%に上る膨大な負債を抱えており、国債の金利が2%上がっただけで、償還費用が政府予算の100%に達するであろう。これは、日本の貿易赤字と低成長が続いていることを考えれば、大いにあり得ることである。