2024年11月23日(土)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2009年4月8日

「チェンジ」を決める大統領と世論の駆け引き

 いまから「チェンジ」の方向を見定めるのは難しい。しかし、選択の方向をいくつかの視点で考えることはできる。

 たとえば、金融危機を脱するためには、政府が民間債務をどこまで引き受けて、民間部門の早期回復を促すのかという観点もあり、そこから「チェンジ」を考えてみることもできる。この観点からすれば、政府が金融機関の不良資産を一層買い上げ、個人債務者の救済を一層活発化させることで金融部門と家計部門の債務を極力引き受け、米国経済のけん引役である民間活力の早期回復に資することになる。ただし、これは政府部門の債務を一層拡大させる。場合によっては、金融機能や経済活力の回復を最優先させ、ドルの一段の脆弱化や金利の少々の上昇は放置される可能性もある。

 また、世界の金融秩序を主導して再構築する中で、金融危機のコストを世界中に負担させるかもしれない。このためには、ドルと他の主要通貨の交換レートをリンクさせる、といった手段で世界経済を一層米国経済とリンクさせようとするかもしれない。国際会計制度を変更させることで損失額を調整するといったグローバルスタンダードを握る国しかとりえない手法を多用する可能性もある。

 あるいは、米国が早期に世界経済のリーダーに復帰するにはどうすればよいのかという観点から「チェンジ」の方向を考えることもできる。この観点では、80年代末の巨大な「双子の赤字」をIT革命で吹き飛ばして戦後最長の好景気を実現させたように、再生可能エネルギーなどの新分野でエネルギー革命、環境革命などを起こし、米国企業がグローバルスタンダードをいち早く握ることで米国の復活につなげようとするかもしれない。

 さらに、ないと期待したいが、グローバル化やドルの基軸通貨といった世界経済を主導する枠組みが米国経済復活の足を引っ張っている面が強いと考えるならば、反グローバル化に舵を切ることすらあり得ないことではない。もっとも、この場合には、かつてのモンロー主義に近似して、世界経済をブロック化させることにつながる可能性もありえよう。

 種々の観点から「チェンジ」の方向が考えられるとしても、「チェンジ」が一概に世界経済を良い方向に導くとは断言できない。ただし、大統領と世論との100日ハネムーン終了の後に見えてくるものは、今度はオバマ大統領と世論との待ったなしの駆け引きである。そして、米国世論がどう動き、オバマ大統領がどれだけ世論を気にするかが今後の米国の「チェンジ」の有無や大きさを決める最大の鍵であることは間違いない。

 

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