2024年5月20日(月)

Wedge REPORT

2023年11月8日

教員の志気を下げた免許更新制度

 ほんの少し前まで、日本の教育政策の中でやめるべきものの筆頭を問われたら、筆者は真っ先に「教員免許更新制」をあげただろう。教員の定額働かせ放題の状況には目をつむっておきながら、さらに教員を締め付けることを目的にできた制度である。

 09年4月に導入され、10年余りも膨大な税金をかけて学校現場に大きな混乱と疲弊を招いた。そして、教員不足という負の遺産を生み出し、そのつけを今の子ども達に払わせている。

 文部科学省は、「不適格教員を排除することを目的としたものではありません」とわざわざ説明することで、この制度の目的が不適格教員排除であることを明らかにした。

 不適格教員がいることは事実である。しかし、教員免許は大学において規定課程を終了すれば誰でも授与される仕組みであって、教育の適格性を意味するものではない。教員の適格性は採用段階で判断されているわけだから、免許更新講習でこの問題が解決する訳がない。

 日本の学校教育制度史上最大の愚行とも言える教員免許更新制はなぜ設けられたか。当時文科省の教員政策担当者でもあり、後に文部科学省事務次官になった前川喜平氏がその著書『面従腹背』(毎日新聞出版)の中で、この制度の導入がいかに政治的であったかを暴露している。

 つまりは、学校を政治利用したことに他ならない。文科省としては最初から反対で、この制度を防ぐ目的で法定研修として10年次研修を位置づけた経緯などを記している。

 一旦はそれでお蔵入りになりそうになったが、政治的な動きが止まることはなく、その後10年次研修を残したまま教員免許更制度が始まった。教壇に立つ全教員が定期的に約3万円の費用を支払って30時間ものの講習を夏休みや土日を利用して受けねばならず、教える大学教員も含めて教員の負担は増えるばかりになったのだ。それだけでなく、全教員が国から不信任を突きつけられ、その志気を削がれたのだ。

雪だるま式に増えていく業務

 この頃から学校では教育に絶望感をもつ教員が増え、「教員になんか絶対ならない方がいい」という会話があちこちで聞かれるようなった。この制度が継続すれば、間違いなく日本の学校から教員がいなくなっただろう。さすがに政治家もそのことに気付いたらしく22年7月に廃止となったが遅きに失する感は否めない。

 これ以外にも全国学力・学習状況調査、教員評価、学校防災連絡会議など、その成果はまったく検証されないままに業務がどんどん増えてきている。全てが悪いとは言わないが、業務を増やすなら組織体制も充実させたり、その成果をしっかりと検証する過程を組み込んだりしなければうまくいくはずがない。筆者は学力学習調査など断捨離候補の筆頭だと思っている。

 最近ではさすがに担任不在のクラスが生まれたり、教員の残業時間が過労死ラインを超えている割合が経済協力開発機構(OECD)加盟国でもトップクラスであることが判明したりしたこともあり、国も考えを改めつつあるようだ。


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