もう7、8年前の話である。ある行政部署の職員が公立中学校の校長をしていた筆者に「校長先生に折り入ってお願いがある」と来校した。
行政からの訪問では断るわけにはいかない。丁重にお招きして話を聞いたところ、「人命救助プログラムを回り番で今年は本校にお願いしたい。教育委員会にも話は通してある」とのことだった。
詳細を聞くと、2時間ほど理解を深める出張授業を行い、その後実際に日曜日などの休日に生徒が徘徊老人など困っている人を救助する模擬訓練を行うという内容で、昨年度他の学校で行った訓練の写真などもお見せいただいた。そこには休日に模擬訓練する生徒や、そしてそれを見回る校長や先生達の姿が映っていた。
筆者は、「自分にとっても身近な問題であり、大変重要な社会課題だと認識している」と前置きして、「ただ、既に本校では年間のカリキュラムをすべて組んでおり、これからこうした活動を入れるとなると年度途中に計画を立て直さねばならない。また、日曜日に訓練となると職員に休日勤務を命じることになり、通常の学校教育活動に大きな支障が発生する。教育委員会に話を通してあると言うことだが、そのあたりについて教育委員会はどのような判断をしているのだろうか?」と丁寧に聞いた。
すると、来訪した職員の方々は思いもよらぬことを聞かれたという顔をした。「今まで頼んだ学校は全て受け入れてくれたがそういう問題があるとは初めて聞いた。上司と再度検討してきます」と言ってお帰りになったが、その後来ることはなかった。
おそらく筆者は融通の利かない校長と評価されたに違いない。このように学校には次々とさまざまなことが持ち込まれてくる。それを断るのは簡単なことではない。
今、日本の学校では深刻な教員不足が起こっている。国の調査よりも信頼度が高いと思われる全日本教職員組合の調査によれば、2023年5月1日時点で、公立の小中学校や高校で「教員不足」が少なくとも2082人発生している(「5月時点で少なくとも2082人の「教員不足」 全教調査」教育新聞)。
4月に学級担任がいないという、昔にはあり得なかったことが現実に生まれている。これは日本の学校崩壊の始まりと言っていい。
しかし、行政の対策は、採用試験日を都道府県でずらすことで倍率が上がったように見せかけるなど小手先のごまかしばかりである。重要なことは、教員が意欲をもって教壇に立てる環境を整えることであり、そのためにまず取り組むべきは、学校に押し寄せてくる業務や理不尽な学校利用の「断捨離」である。