東京・丸の内といえば、東京だけではなく、日本の玄関口であると言っても過言ではありません。だからこそ、この街で働く人、街そのものも「カッコよくあってほしい」。そんな思いで私は、20年近く丸の内の街づくりにも携わってきました。老舗企業や店舗がひしめく中で、新しい息吹をもたらしているのが、HIGASHIYA man 丸の内(2019年6月開店)。お店のコンセプトは「丸の内のオフィスワーカーが気軽に立ち寄れる〝お饅頭屋さん〟」です。
東京駅から皇居に向かって行幸通りを歩き、丸の内仲通りを右に回ると、白い暖簾がかかっているのが目に入ってきます。外観からも漂ってくる洗練された雰囲気に、初めてだとちょっと入りづらい感じもしますが、ぜひ思い切って入ってみてください。
店内はスタイリッシュであると同時に、どこか懐かしさも感じさせてくれます。それは、そこに並ぶのが私たち日本人が慣れ親しんできた食材や品物だからだと思います。和菓子の製造販売を行うHIGASHIYAを率いるのは緒方慎一郎さん。空間デザイナーとしてキャリアをスタートさせ、1998年に「現代における日本の文化創造」というコンセプトで、和食料理店「HIGASHI−YAMA Tokyo」を立ち上げ、2003年からは和菓子も手がけるようになりました。
今回紹介するお土産は、HIGASHIYAの「ひと口羊羹」です。緒方さんは著書の中でこう語っています。「黒い、四角い、重い。室内の暗黒から切り取られた羊羹。その哲学的な存在感は、和菓子のなかでも格別だ。しかし同時に、樟脳のにおいがしみついた着物のような、古くささがある。忘れられた菓子になる前に、ほんの少し、削ぎ落とす。普段着も似合う贈り物になるように、暗黒の重さを失わない際まで」(『HIGASHIYA』青幻舎)。
ここに、HIGASHIYAの和菓子に共通する軸を読み取ることができます。つまり、「型があっての型破り」です。羊羹の本質を大事にしつつも、そのままにはしない。「ひと口羊羹」も、羊羹なのですが、羊羹ではないのです。変な言い方なのですが、そうなのです。まずは、その大きさです。
「オフィスワーカーが、机に入れておいてちょっとした際に食べることができるサイズをイメージしました。そして、私どもが販売している普通の大きさの羊羹の箱に12棹が入る大きさに決まりました。完成までに3年かけて昨年の6月から販売を開始しました。お土産用はもちろん、レジ横のガムを買う感覚で、1棹だけ購入する方もいます。私は登山をするのですが、そんな時の糖分補給にもうってつけです」(ブランドマネージャーの宮城明子さん)
そして、味です。「焦蜜」「濃茶」「椰子の実」「無花果」と4種類で、「焦蜜」「濃茶」は、確かに羊羹なのですが、全体的に甘さが控えめです。「椰子の実」「無花果」にいたっては、小豆よりもそれらの味が際立っていて、羊羹ではない別のお菓子と言われてもおかしくないほどです。それでも、食感、小豆の味という点では羊羹なのです。オフィスワーカーが食べやすい大きさにして、さらに甘さも抑え、新しい味を生む。ライフスタイルの変化を羊羹にまで踏み込んで実現しているのです。
この型にはまらない羊羹の包装(12棹入り)は、白い箱に紐が結われています。なんとも美しい佇まいです。「包む」とは、「慎む」という言葉から来ているそうで、包装は贈る側の人の慎みの気持ちを表すことでもあるのです。これこそまた、日本人が受け継いできた文化の一つなのです。