2024年4月20日(土)

ヒットメーカーの舞台裏

2013年11月13日

3度も見直された
発売時期

 商品化の検討が始まったのは09年の初めであり、北岡は疲労がもたらすとされる目の下のクマ、あるいは小じわなどに悩む女性向けに、目もとの「ハリ感とうるおい」を訴求しようと考えた。パナソニックは00年代半ばにも、目もとエステ関連として装着型の製品を出した。目の周囲にジェルを塗って電気治療のように低周波を使うという、やや大掛かりなものだった。一定の支持はあったが、数年で撤退した。北岡は、この商品の教訓から「もっと手軽に使え、そして爽快感もある」商品を描き、09年夏にはコンセプトが固まった。

 この時点の発売計画は翌10年の秋。しかし、商品化は思いもしない難産となる。目を覆って温度を高めるというこの商品の本来的な構造や機能から、「温度制御や衛生管理などで社内の厳しい安全・品質チェックが入ることになった」(北岡)のである。装着したまま寝ることもあるので、ヒーターが暴走して高温にならないといった安全対策の徹底である。衛生面ではスチームを発生させるために水を供給する「給水プレート」が問題となった。このプレートは、メガネのレンズ部分だけのような形状で、当初は素材にメッシュ状の繊維などを検討した。しかし、使い残した水が腐敗したり、カビが発生したりする恐れがあり、却下となった。

 最終的にはプラスチックに小さな穴を無数に開け、表面張力で水を保持する方式とした。洗浄と乾燥が容易であり、清潔。悩んでいた設計者が、自宅のエアコンフィルターを掃除した際、フィルターに水滴が付着しているのを見て表面張力の活用を思いついたという。

 次の難関は、本体の形状だった。1サイズでできるだけ多くの人にフィットする形状を求めた。全体を柔らかい構造にすれば多くの人への汎用性は高まる。しかし、スチームを逃さないためやバイブレーションを肌に伝えるため、ハードな構造が必要だった。開発陣は日本人の顔の「3Dデータ」を購入して設計を進めたが、社内での試作品の実験では、合わない人が少なくなかった。

 さまざまな用途のゴーグルも買って検討するうち、スキューバダイビング用が参考になった。躯体はプラスチックとし、顔に当たる部分はシリコン製パッドという2重構造にした。柔構造のパッドが密閉性と汎用性を両立した。男女を問わず日本人のほぼ9割にフィットする形状となった。


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