2024年11月23日(土)

ヒットメーカーの舞台裏

2009年4月28日

 井口が求めた「売価」は、ユーザー、事業者側とも採算性を犠牲にしなくてすむ最適値を意味する。井口は開発の初期段階から、目安はつけていた。05年からインターネットを通じた独自の調査を進めていたからだ。

 調査は、HVと同等性能をもつガソリン車との価格差に応じた購入意欲の変化を中心に定期的に実施した。結果、見えてきたのは「25万〜30万円」の価格差がひとつの限界点になるということだった。

 つまり、その範囲でハイブリッドが割高なら許容できるが、30万円を超えると購入意欲は急にしぼむ。逆に25万円を下回れば意欲は高まるという傾向をつかんだ。

 実は当初、開発チームが設定しようとした基本モデルの価格は170万円台だったという。これだとガソリン車との価格差は10万円前後に縮まる。ただし、装備品は貧弱になってしまう。チームが一貫してこだわったのは、走りも燃費も装備品も低価格だからとの「言い訳をしない」クルマだった。

最廉価グレードでなく「最量販グレード」を目指す

 そこは井口の出番だ。170万円台はご破算にし、基本モデルの装備品を取捨選択していった。幼少時から人後に落ちない「クルマ好き」で、学生時代は自動車販売会社でアルバイトしながら商品知識を蓄えていった。

 その会社が扱う全車種の仕様、性能等はすべて頭にたたき込んだ。「好きだからできた」し、今も「仕事と趣味の境界がないような幸せ者」と言う。そうした蓄積を生かし、ユーザーの立場から価格と装備の最適バランスを求めていった。

 とくにもっとも安い基本グレードの装備品には注意を払った。業界では基本グレードを「見せかけ」の低価格車とするケースが少なくないが、井口は「最廉価グレードでなく最量販グレード」を目指して装備品をセットした。

 例えば、同社の最高級車にしか搭載されていなかったフロント遮音ガラスの採用を主張した。HVは走行音が小さいのが特徴であり、それを更に際立たせたかったからだ。異論はあったが、知識が生み出すのであろう井口の柔軟な発想に周囲は納得した。


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