4月の新車乗用車販売ランキングでトップに躍り出たホンダ「インサイト」。大ヒットの裏側には何があったのか。キーマンに取材した。
インサイトの発売は、ホンダの経営公約だった。3年前の2006年5月、社長の福井威夫が「求めやすいハイブリッド車(HV)を09年に投入する」と表明したのだ。「環境(性能)だけでは、なかなか買っていただけない」が福井の持論であり、思い切ったコストダウンにより、エコカーの代表格となったHVの普及促進につなげるという宣言でもあった。
販売台数トップに躍り出た
ホンダ ハイブリッド乗用車「インサイト」
同等の動力性能をもつガソリン車に比べ、燃費が2倍前後まで伸びるHVの環境性能は高く評価されている。インサイトの場合、燃費は1リッター当たり30㌔(国交省の10・15モード審査値)に及ぶ。
ただし、HVにはエンジンのほかにモーター、バッテリー(蓄電池)、制御装置などが必要であり、割高になる。量販タイプのモデルでも、同等のガソリン車よりも40万〜50万円ほど高い。ガソリン代は節約できるものの、初期費用の差額を回収するにはたくさん走るヘビーユーザーでないと難しいのだ。
そこに登場したインサイトは、最も安いモデルで189万円。コスト低減の実現をバネにした価格設定が、「クルマの費用を節約し、環境負荷の低減にも寄与したい」という、ユーザーの心をつかんでいる。
ホンダの新車開発は、開発部門子会社の本田技術研究所とホンダ本体の商品企画部門の混成で進められる。技術者集団の研究所と、よりユーザーに近い企画部門が連携し、旗印である「独創」や「先進」の商品を顧客に届けるというチーム編成である。
企画を担当したのは、4輪営業統括部商品開発室の商品企画ブロック主任だった井口郁(39歳)。中途入社の井口は当時、まだ入社から5年程度のキャリアだった。社歴にこだわらずチャレンジさせるホンダならではの起用法だ。「新時代の環境車のスタンダードをつくる」(井口)という大役に、当然「燃えた」。
そこから「事業として成立し得る売価」(同)を求める試行錯誤が始まった。HVの課題は「採算性」だった。ユーザーは値段が高いので元がとりにくいし、メーカーも販売会社も薄い利幅に甘んじてきた。