2024年12月4日(水)

JAPANESE, BE AMBITIOUS!米国から親愛なる日本へ

2024年7月26日

同質な人とばかり話しては
「世の中」が見えにくくなる

──日本人留学生も減少しています。若者たちに伝えたいこととは?

筒井 もっと海外に出て、外の世界で勝負してほしい。これに尽きます。海外に出て、見聞を広め、世界最先端の学問に触れ、そして、その世界で最も優秀だと言われる人たちにどんどん会ってほしい。米国人はさしたる根拠もないのに、やたらと自信を持っている人が多い。日本人だと気後れするかもしれませんが、こうした世界に身を置いていると、徐々に慣れてきます。日本人の中にはプレゼンテーションの際、「たいしたことではないのですが……」と謙遜する人がいます。それはいいのですが、国際的な舞台では、もう少し積極的に「これ、すごいんですよ」というアピールをしてもいいと思います。だから、短期留学でもいい。この空気感に触れることは人生観を変えるきっかけにもなるでしょう。

山本 テクノロジーについても同様で米国では次々に新しい技術が誕生しています。西海岸ではテスラやWaymo(ウェイモ)が当たり前のように走っている。これは言葉で説明しても伝わりにくい。自分の目で見て実感することが大切です。海外でテクノロジーを学び、日本に戻って伝道師として活躍することも立派な還元策です。

 日本は高校3年生の時点では世界でも有数の数学ができる国の一つです。AIも数学の能力が問われます。日本には、国際数学オリンピックで世界1位の成績で金メダルを獲得する高校生がおり、世界と伍して戦える人材は必ず存在しています。そのままの勢いでどんどん外へ出てきてほしい。

 その時に重要なのは、親の意見よりも自ら考えて進路を決めることです。留学するなら、できればその分野のトップの大学がいい。もちろん、これは並大抵のことではありません。そして、その過程で、どうすれば世界トップの人間に勝てるようになるのか、自問自答することです。その中での葛藤は、必ずや将来の糧になります。

筒井 教育は国家百年の計ですが、日本の教育改革は必須です。従来のマークシート方式の受験制度だけでは拾えない才能はたくさんいます。これからの時代に必要な人材とは「異端の人」。一例を挙げれば、イーロン・マスクのような規格外の構想力・実行力を持つ人たちが活躍できるようにすることです。日本も、異端の人を発掘する仕組みや選択肢を増やす努力が必要でしょう。そのためにも多様性を大事にしなければなりません。

 スタンフォード大学をはじめ米国の大きな大学では、これまでトップ大学にアクセスしにくかったような人材、地方で農業を営む家庭や親族が誰も大学を卒業していない移民家族などの出身者を採用しようと努力しています。その場合、高い授業料がハードルにならないように、奨学金などの制度が充実しています。

山本 米国の受験制度にも歪みがあり、親が子どもを有名大学に入学させたいがあまり、不正事件が起こっています。ただし、卓越した才能を発掘し、伸ばす環境が用意されています。

 そうした優秀な人材を確保するため、数値目標を掲げる大学も多い。つまり、同じような(白人富裕層の)学生ばかり集めても、新しいものは生まれにくい。違う考えを持つ人、違う州で育った人、違う国の教育を受けてきた人など、「違う」ことこそが大事であり、その中で揉まれることで新たなものが生み出される。つまり真の意味で「多様性」を重視しているのです。

筒井 日本では名門高校、有名大学を卒業して大企業に入れば、周りからも一目置かれ、本人たちも居心地がいい。そうした安定は日本社会の強みでしたが、それだけが目標になっては本末転倒ですし、学歴が似ている同質な人たちと話すばかりでは、「世の中」が見えにくくなります。当然、異端の人材の発掘・育成も難しいでしょう。

 その意味で、日本人は外の世界に「揉まれていない」印象があります。企業の意思決定層にも積極的にリスクテイクする人が少ない。これを変えていく必要があります。だからこそ、積極的に外に出てほしいのです。

 一方、私は、米国の大学で一人でも多く日本研究者が増えるよう環境整備に励み、日本との交流を強化し、日米関係のさらなる発展に尽力していきたいと考えています。

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Wedge 2024年8月号より
JAPANESE, BE AMBITIOUS! 米国から親愛なる日本へ
JAPANESE, BE AMBITIOUS! 米国から親愛なる日本へ

コロナ禍が明けて以降、米国社会で活躍し、一時帰国した日本人にお会いする機会が増える中、決まって言われることがあった。 それは「アメリカのことは日本の報道だけでは分かりません」、「アメリカで起こっていることを皆さんの目で直接見てください」ということだ。 小誌取材班は今回、5年ぶりに米国横断取材を行い、20人以上の日本人、米国の大学で教鞭を執る研究者らに取材する機会を得た。 大学の研究者の見解に共通していたのは「日本社会、企業、日本人にはそれぞれ強みがあり、それを簡単に捨て去るべきではない」、「米国流がすべてではない」ということであった。 確かに、米国は魅力的な国であり、世界の人々を引き付ける力がある。かつて司馬遼太郎は『アメリカ素描』(新潮文庫)の中で、「諸民族の多様な感覚群がアメリカ国内において幾層もの濾過装置を経て(中略)そこで認められた価値が、そのまま多民族の地球上に普及する」と述べた。多民族国家の中で磨かれたものは、多くの市民権を得て、世界中に広まるということだ――


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