イギリスのレイチェル・リーヴス財務相は30日、下院で秋季予算案を発表した。労働党としては2010年以来。経済規模比ではイギリス史上2番目に大きい、400億ポンド(約8兆円)の増税を含んでいる。
イギリス初の女性財務相であるリーヴス氏は、保守党から引き継いだ国家財政の220億ポンドの「ブラックホール」を埋め、国民保健サービス(NHS)などの公共サービスに投資するため、増税が必要だと主張している。
リーヴス氏は議会での演説で、労働党が7月の選挙で有権者に示した、「投資し、投資し、投資する」ことで「経済成長を促進する」という公約を果たすと述べた。
「これはイギリスにとって根本的な選択の時だ。私は自分の選択をした。責任ある選択をした。イギリスに安定を取り戻すために。労働者を守るために」
「学校の教師を増やす。NHSの職員を増やす。住宅をさらに建設する。経済の基盤を固める。未来に投資し、変化をもたらし、イギリスを再建する」
また、「今年と来年の経済成長率見通しは上方修正されており、これは良いニュースだ」と付け加えた。
しかし、イギリスを先進国の中で最も急速に成長する経済大国にするという政府の公約には疑問の声も上がっている。
金融監督機関の予算責任局(OBR)は、キア・スターマー政権の経済対策パッケージでは最終的に「5年間、国内総生産(GDP)はほぼ変わらないだろう」とした。
また、2025年の経済成長率は2%で、以前の予測より0.1ポイント上昇するものの、その後の数年は下降し、2028年には1.5%になるとの見通しを示した。
BBCのクリス・メイソン政治編集長のインタビューでリーヴス氏は、これほど大幅な増税を含む予算案は一度限りのもので、「このような予算編成を繰り返したいとは思わない」と述べた。
「しかし、これは過去の帳簿をきれいにし、財政を健全な軌道に乗せるために必要な予算編成だ」
保健や教育で支出増加、最大の増税対象は雇用主
下院での76分間にわたる演説でリーヴス氏は、保守党前政権からの政策転換の概要を説明。大規模な支出と税制に関する決定を明らかにした。
保健、教育、交通の分野では支出の増加が見込まれる。特にNHSに対しては、現場に220億ポンド、設備や建物に30億ポンドと、2010年以降で最大の予算がついた。
一方で、所得税の課税最低限度額の凍結を2028年以降、継続しないと発表。これにより、何百万人もが初めて課税対象となるか、税率が引き上げられることとなった。
また、国内インフラに数十億ポンドを投入できるよう、労働党が自ら課した借入ルールを変更すると発表した。
今回、増税の影響を大きく受けるのは雇用主だ。
リーヴス氏は、「労働者」の所得税、国民保険料、付加価値税(VAT)は増税されないと述べ、7月の総選挙における労働党の公約を実現した。
その代わり、雇用主は労働者の収入に対する国民保険料で負担増となり、年間最大250億ポンドが政府に納められることになる。
また、資産売却益に課税されるキャピタルゲイン税も最大20%から最大24%に引き上げられる。相続税の課税最低額は据え置かれる。
予算案ではまた、来年度のガソリン税も凍結し、4月に期限切れとなる予定だった、保守党が導入した5ペンスの減税措置を維持する。
その他、以下の点が含まれている。
・2025年1月からの私立学校の授業料にVATを適用する
・自家用ジェット機の航空旅客税を50%引き上げる
・2026年10月から、電子たばこ用リキッドに10ミリリットルあたり2.20ポンドの新たな税金を導入する
・たばこ税をインフレ率より2%、手巻きたばこではインフレ率より10%引き上げる
・非ドラフトアルコール飲料の税金をインフレ率の高い方のRPI指標で増加する。ただし、ドラフト飲料の税金は1.7%引き下げる
・セカンドハウスの印紙税土地税割増金は31日から2パーセントポイント増加し、5%とする
野党や企業団体からは批判の声
予算案に対する答弁で、最大野党・保守党のリシ・スーナク党首は、リーヴス財務相が経済成長を「妨害」していると非難した。
野党党首として最後の議会演説を行ったスーナク氏は、「政府は国民の仕事に課税し、ビジネスに課税し、貯蓄に課税している。何であれ課税の対象にするだろう」と、下院議員らに語った。
これに対しリーヴス氏は、経済の「基盤を修復」するためには、どんな「責任感のある財務相」でも同じことをせざるを得なかったはずだと述べた。
野党第2党の自由民主党は、NHSへの追加予算を歓迎し、「これが保守党のせいで地域医療サービスに生じたすべての損害の修復を開始する」と述べた。
しかし党首のサー・エド・デイヴィーは、「雇用主の国民保険料引き上げは雇用と繁華街への課税だ。また、何千もの小規模な介護事業者に打撃を与えることで、医療と介護の危機をさらに悪化させるだろう」と指摘した。
また主要な企業団体は、今回の予算案は企業にとって「厳しい」ものであり、企業の投資能力を損なうものだと指摘した。
英経営者協会(IoD)の政策ディレクター、ロジャー・バーカー氏は「一見したところ、政府の最初の予算案には、目先の痛みを伴う以外のものはほとんど含まれていない」と述べた。