スペインの集中豪雨による洪水は、10月31日時点で死者が少なくとも158人に上り、同国で過去最悪レベルの被害となっている。被災地では生存者発見が時間との闘いになっている。
当局などによると、東部バレンシア州では少なくとも155人の死亡が確認された。同州の西のカスティーリャ・ラ・マンチャ州では2人が死亡し、南部アンダルシア州でもイギリス人男性1人の死亡が報告された。
行方不明者について、当局は「多数」とし、人数は明らかにしていない。
被災地では31日、救助隊員ら1200人以上がドローン(無人機)も使いながら救助活動に当たった。国内の一部では雨が降り続き、南部と東部にはこの日も警報が発令された。
ペドロ・サンチェス首相は被災地を訪れ、「いま最も重要なのは、一人でも多くの命を救うことだ」と述べた。また、必要な場合は避難するよう呼びかけた。
国王フェリペ6世は、緊急事態は「まだ終わっていない」と、引き続き注意するよう求めた。
被災地では、仮設の避難所に数百人が身を寄せている。泥やがれきの中から遺体を収容する作業が進められており、道路や住宅、店舗などの復旧に向けた時間と労力のかかる取り組みも始まっている。
バレンシア州と他の地域を結ぶ多くの道路と鉄道網は、寸断されたままとなっている。
被災地では
バレンシア州のパイポルタでは、川が決壊し、少なくとも40人の死者が確認された。
BBCが31日に現地に入ると、薬局の前に薬剤師のミゲル・ゲリーリャさんが立っていた。ゲリーリャさんは、「私たち全員、亡くなった人を誰かしら知っている」、「悪夢だ」と話した。
通りでは、葬儀業者などが遺体の収容に当たっていた。少し離れた路上には、洪水で流された車が積み重なっていた。
29日からの豪雨で、高速道路や通りは川に変わり、多くの人が木や橋の上に上って生き延びた。車に乗っていて、洪水によって身動きが取れなくなった時の恐怖を語る人もいた。
スペインは31日から3日間の服喪期間に入った。各地で役所に半旗が掲げられ、黙とうがささげられた。
ヨーロッパの先進国が洪水の危険性を地域住民らに、適切なタイミングで警告できなかったとみられていることについて、国民の間で怒りが高まっている。
国家的な災害時に対応に当たる市民保護機関は、29日午後8時15分まで警報を出さなかった。この時にはすでに、バレンシア州のいくつかの場所で洪水状態が数時間続いていたとされる。
当局は今回の豪雨と洪水を「前例がない」としている。スペイン気象庁(AEMET)によると、バレンシア市に近い町チバでは、8時間のうちに1年分に相当する量の雨が降ったという。
洪水の原因はさまざまだが、気候変動による温暖化が異常降雨の可能性を高めている。
気象研究者らは、今回の豪雨が「ゴタ・フリア」によって引き起こされた可能性が高いとしている。「ゴタ・フリア」とは、スペインで秋と冬に発生する自然気象現象で、地中海の暖かい海水の上に冷たい空気が流れ込むことで起きる。
しかし、地球の気温が上昇したため、雲がより多くの雨を運ぶようになっていたと、科学者たちはBBCに説明した。
世界の気温は、世界経済の工業発達が本格化する以前(1850~1900年)より約1.1度上昇している。世界中の国々が温室効果ガスの排出量を大幅に減らさない限り、気温は上昇し続ける。
温暖化の影響を研究する国際的な科学者グループを率いる、インペリアル・コレッジ・ロンドンのフリーデリケ・オットー博士は、「今回のような爆発的な豪雨は、まぎれもなく、気候変動によって激化したものだ」と話した。
今回の洪水による死者数は、1973年にスペイン南東部のグラナダ、ムルシア、アルメリアを襲った洪水以来、最悪規模となっている。この時は少なくとも150人が死亡したと推定されている。
(英語記事 Spain mourns as death toll passes 150 in catastrophic floods)