しかも、09年には格差が縮小している。08年のリーマンショック前まで景気が良くて、若者の就職状況が良かったことの恩恵が09年でも残っていたのだ。すなわち、景気回復と経済成長が格差を縮小させたのである。
これに対して、09年でも30歳代の格差が拡大しているというコメントがあるかもしれない。しかし、30歳代の格差は、それ以前の経済停滞で生まれた若年層の格差が引き継がれたものだ。小泉政権下での景気拡大が90年代になされていれば、09年調査での30歳代の所得格差の拡大もなかっただろう。
政権交代を招いた誤った認識
にもかかわらず、格差が拡大したから自民党は政権から追放され、準備不足で弱体だが格差縮小を唱えた民主党が政権に就いたことになっている。だから、自民党も小泉構造改革路線を取れなくなった。しかし、小泉政権が実際にしたことは、規制緩和、民営化、財政支出の抑制(公共事業の削減と社会保障支出の抑制)、銀行不良債権の最終処理、金融の量的緩和などである。実は、規制緩和と言っても大きなことはなされていない(何をしたか、覚えている方はおられるだろうか)。郵政事業と道路公団の民営化は大きなことだが、どちらも中途半端で、本当には民営化されていない。
私は、小泉政権が本当にしたことは、量的緩和、公共事業の削減、社会保障支出の抑制であると思う。01年から06年まで続いた量的緩和政策は、現在の安倍首相の大胆な金融緩和の先駆けである。これによって為替レートが安定し、輸出と投資が伸び、日本の実質GDP成長率は2%に高まった。安倍首相は、実験済みの政策を行っているのである。今度は途中で止めず、物価上昇率が2%になるまでやるべきだ。
超高齢社会に向かう日本で社会保障支出を抑制するのは当然である。必要な公共事業に限って重点的に行うのも当然である。規制緩和で、日本を世界一ビジネスのしやすい国にすることも当然である。ところが、事実ではない誤解によって、それが極めて難しくなっている。誤った認識が現実を動かすことは事実だが、それでは日本を誤った道に招くことになる。
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