2024年11月7日(木)

BBC News

2024年11月7日

バーンド・デブスマン・ジュニア(ペンシルヴェニア州)、マデリン・ハルパート(ミシガン州)、マイク・ウェンドリング(ウィスコンシン州)、BBCニュース

11月5日に投開票された米大統領選挙で、共和党のドナルド・トランプ候補が民主党のカマラ・ハリス候補を相手に決定的勝利を収めた。かつては民主党が頼りにしていた層の有権者から支持を集め、票を積み上げたからだった。

共和党の次期大統領は、2016年大統領選で自身を初めてホワイトハウスへと押し上げた白人労働者階級の有権者からの強力な支持を得ると同時に、ラティーノ(中南米系)有権者からも大きな支持を集めた。また、男性を中心としたアメリカの若者からの支持については、予想以上の結果を収めた。

複数の出口調査によると、トランプ候補が今回の選挙でラティーノ有権者から得た支持は、2020年前回選挙から14ポイントの大幅上昇をしていた。ラティーノ有権者は元来、数十年にわたって民主党支持層の重要な部分を占めてきた。

トランプ候補は支持層のかたちを作り変えた。激戦州のペンシルヴェニア、ミシガン、ウィスコンシンの3州ほど、このことが顕著に表れた場所はほかにない。2020年選挙でジョー・バイデン氏を勝利に導いた民主党の票田であるこの「ブルーウォール」(青い壁)は、双方が獲得を強く望んでいた。

ノースカロライナやジョージアといった南部の激戦州でハリス候補がトランプ候補に敗れる中、民主党はブルーウォールの3州を獲得すればハリス候補に勝利への道筋が見えてくると希望を持っていた。ところが今回、トランプ候補はこの3州すべてで勝利し、その期待を打ち砕いた。

トランプ候補はペンシルヴェニアでの勝利が確実となった6日午前2時半ごろ、フロリダ州で支持者を前に勝利演説し、アメリカ史上「最大の、最も広範で、最もまとまった連合体」のおかげでこの結果が得られたと述べた。

「彼らはあらゆる方面から集まった。労働組合員や非労働組合員、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系アメリカ人たちだ」と、盛り上がる観衆に語った。「私たちにはあらゆる人がついている。美しい光景だった」。

極めて重要な激戦州ペンシルヴェニアではラティーノ人口が増加している。トランプ候補はその人たちからの大きな支持という恩恵を受けた。

民主党の「うそ」から目が覚めた

ペンシルヴェニア州の投票数の約5%をラティーノ有権者が占めていたことが、複数の出口調査で示された。その票の42%をトランプ候補は獲得。バイデン氏と対決した2020年選挙の27%から上昇した。

調査結果は開票が進むにつれて変動するが、選挙の傾向を大まかに表している。

「ラティーノ・ベルト」と呼ばれるペンシルヴェニア州東部の工業地帯では、今回の結果には驚かなかったと話す有権者もいる。ここでは過去2回の大統領選で、右傾化が進んでいる。

「実に単純な話だ。私たちは4年前の状態が好きだった。ただそれだけだ」と、ペンシルヴェニア州の警官で、同州アレンタウン市の大規模なプエルトリコ人コミュニティーの一員のサミュエル・ネグロンさんは述べた。

ネグロンさんや、今やラティーノ系住民が多数を占めるこの街のトランプ候補支持者たちは、自分たちのコミュニティーがトランプ候補支持に傾いている理由として、社会問題や、家庭をめぐる自分たちの価値観が共和党の方針とより一致するようになったと感じていることなどをあげた。

しかし、一番多くあがった要因は経済、とりわけインフレに関するものだった。

「ここでは卵12個が5ドル(約770円)もする。以前は1ドルとか99セントだったのに」とネグロンさんは付け加えた。

「私たちの多くは、民主党政権の『状況が改善されている』といううそから目が覚めたのだと思う。昔はもっと良かったことに、私たちは気がついた」

厳格な移民政策を支持

アメリカ各地、とりわけペンシルヴェニア州で、メキシコと接するアメリカ南部の国境で移民の流入を阻止し、より厳格な移民法を制定するというトランプ候補の提案に、多くのラティーノ住民が魅力を感じていることは、選挙前の複数の世論調査でも示唆されていた。

ベネズエラ系アメリカ人のダニエル・カンポさんは、「社会主義」が忍び寄っているとするトランプ候補の主張は、自分が母国を離れることになった状況を思い起こさせたと話した。

「(移民が)何から離れようとしているのかは理解している。でも、正しい方法でやらないといけない。自分は正しい方法でここに来た」とカンポさんは述べた。「物事は合法的になされなければいけない。私たちの多くは(バイデン=ハリス政権下で)国境がただ開放されてしまうのではないかと不安だった」。

ラティーノ有権者がトランプ候補支持にシフトしたこと、トランプ候補が白人労働者階級からの支持を維持していたこと、そして大学教育を受けていない有権者からの支持が拡大したことが、ハリス陣営にとって乗り越えがたい障壁となった。

30歳未満や黒人有権者からも支持

しかし、トランプ候補は意外なところでも支持を広めた。

2020年選挙では、30歳未満の有権者からの支持をより集めたのは民主党のバイデン氏で、24ポイントリードしていた。しかし今回はその差がわずか11ポイントにまで縮まった。黒人有権者からの支持でいうと、全国的には依然としてハリス候補が圧倒的(85%)だ。しかしトランプ候補は今回、ウィスコンシン州で黒人有権者から22%の支持を得た。2020年の8%から2倍以上拡大したことになる。

ウィスコンシン州でも特に激戦だったのは、ミルウォーキー市を取り囲む「WOW郡」と呼ばれる3郡、ウォーキショー、オゾーキー、ワシントンだった。ハリス候補は、バイデン氏が2020年にトランプ候補に勝利した同州のこれらの郡で、バイデン氏を上回るような票を得られなかった。また、トランプ候補が優勢な、農村部のより白人の多い地域でも支持は低迷した。

ウィスコンシン州の最大都市で最も多様性のあるミルウォーキーでも、バイデン氏ほどの票は獲得できなかった。

ウィスコンシン大学マディソン校のマイケル・ワグナー教授は、労働者階級の有権者に対するハリス候補の直接的な訴えは、全米の政治情勢を考慮すると、それほど大きな違いを生み出せなかったのかもしれないと指摘した。

テッド・ディツラーさんは小規模都市ウォーキショーの郊外にある消防署で投票したという。

「私がトランプ候補に投票するのは、国境や経済の問題、そして戦争をなくすためだ」

「トランプが大統領になった時、私たちは大きな違いを目の当たりにした」とディツラーさんは述べた。そして、トランプ候補がロバート・F・ケネディ・ジュニア氏やタルシ・ギャバード氏といった元民主党議員を受け入れているところに引かれたとも付け加えた。

「インフレは大問題だ。ハリスはそのことを理解しているとは思えない」、「みんなただ、トランプを取り戻せばみんなの生活はよくなると思う」とディツラーさんは述べた。

経済政策に期待

中西部ミシガン州の労働者階級の有権者にも、トランプ候補の国内経済に焦点をあてたメッセージが響いていた。

ほぼすべての票の集計が終わった時点で、トランプ候補は2020年選挙で敗北したミシガン州で今度は約8万5000票差でリードしている。労働者階級の有権者が多く暮らすデトロイト郊外マコーム郡だけでなく、複数の農村部でも票を伸ばした。

ナヒム・ウディンさんは、大統領に就任したら物価を引き下げると言っていたからトランプ前大統領に投票したという。ウディンさんは宅配ドライバーで、以前は米自動車大手フォードで働いていた。

「車を買いに行ったら、金利がとてつもなく上昇していた」と、34歳のウディンさんは述べた。「それが彼に投票した理由だ」。

ウォレン市の中小企業経営者イアン・イアン・シェインさんも同じだった。トランプ候補は所得税を引き下げて、自分のような人たちを助けてくれるだろうと、彼女は話した。

民主党は経済をめぐるメッセージの内容を、ミシガン州の有権者に合うよう調整しようとした。電気自動車の製造に投資すると大々的に売り込む一方で、トランプ候補に批判的な全米自動車労働組合(UAW)のショーン・フェイン会長の支持を取り付けた。

しかし、共和党は電気自動車への移行は雇用を犠牲にすると主張し、こうしたメッセージの「無力化」に成功したと、ミシガン州立大学のマット・グロスマン教授は指摘した。

結局、ブルーカラー層の有権者の間で、物価高と家計ひっ迫の原因は民主党にあるという認識が残ることになった。

「有権者は新型コロナウイルス拡大後のインフレで経済的な苦痛を受けていて、それをバイデン氏とハリス氏にぶつけている」と、ミシガン大学のジョナサン・ハリソン教授は述べた。

(英語記事 'It's simple, really' - why Latinos flocked to Trump's working-class coalition

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cx2n48rlwd7o


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