アメリカ大統領選で勝利したドナルド・トランプ次期大統領は、複数の有罪評決を受けているほか、いくつかの刑事事件の裁判が進行中の状態で就任する、初のアメリカ大統領となる。
34件の州法違反で重罪人となり、複数の刑事裁判で被告人となっている人物が、政府最高峰の職責につくことで、アメリカはかつてない未知の領域へと進む。
ホワイトハウスに復帰するとともに、次期大統領が抱える多くの法律上の懸案は消えてなくなる。BBCがアメリカで提携する米CBSニュースによると、連邦法違反の事件を取り扱う政府部局とトランプ陣営との間で、裁判をどうやって打ち切るかの協議がすでに始まっている。
CBSニュースは消息筋2人の話として、協議においては、(1)現職大統領は起訴しないという決まりについてと、(2)滞りない政権移行が必要だという視点が、話し合いの中心を占めると伝えた。
来年1月の就任式より先に、連邦法違反の事件打ち切りを決めることで、次期大統領と司法省がいきなり対決する事態は避けられると、AP通信は伝えている。.
四つの刑事事件が今後どうなるか、予測してみる――。
不倫の口止め代を事業記録に虚偽記載
トランプ次期大統領は今年5月、ニューヨーク州の裁判所において、事業記録の虚偽記載をめぐり34件の重罪について、有罪評決を言い渡された。
ポルノ映画のスター女優との不倫関係について、2016年大統領選を前に口止め料を支払ったとされる件で、この支払いを事業記録に虚偽記載したと、ニューヨーク市民からなる陪審団が有罪と判断した。
ニューヨーク州地裁のホアン・マーシャン裁判長は9月、量刑言い渡しを当初期日の9月18日から、大統領選後の11月26日に延期した。「本件が現在置かれている独特な時期」などを考慮したと説明した。
「トランプ被告」が次期大統領になったとはいえ、予定通りに量刑言い渡しが行われる可能性もあると、ニューヨーク・ブルックリンのジュリー・レンデルマン検事は話す。
ただし、次期大統領が78歳と高齢で、かつ初犯だという点も考慮すると、刑務所に収監されるような実刑が言い渡される可能性はほぼありえないと、複数の法律関係者は指摘している。
仮に実刑が言い渡されたとしても、弁護団はただちに控訴するはずだと、レンデルマン検事は説明する。また、禁錮刑は大統領としての公務執行の妨げになるため、控訴中は収監すべきではないと弁護団は主張するとみられている。
「そのシナリオの場合、控訴審は何年も続く可能性がある」と、レンデルマン検事は言う。
2020年大統領選を覆そうとした共謀罪
司法省のジャック・スミス特別検察官は昨年、2020年大統領選の結果を覆そうとした罪で、トランプ被告を起訴した。
次期大統領は無罪を主張した。
この事件については連邦最高裁が今年7月、トランプ氏を含む歴代大統領は在職中の特定の行為について訴追を免れると判断を下したことから、審理が中断している。
スミス検事は今年10月初めに、事件について新たに申立書を提出。その中で、トランプ被告が選挙結果を覆そうとしたのは、大統領としての公務とは無関係だと検事は主張した。
トランプ陣営と司法省が現在行っている協議によって、この裁判は打ち切りになる可能性がある。
次期大統領として、この事件に伴うトランプ被告の諸問題は「消えてなくなる」と、元連邦検察官のネアマ・ラーマニ氏は話す。
「現職の大統領は起訴できないという、確固たる慣習がある。そのため、ワシントンの連邦地裁で審理している選挙不正事件は、打ち切りになるはずだ」
もしスミス特別検察官がこれを拒否すれば、トランプ被告はすでに公約しているとおり、大統領となってただちにスミス氏を解任することができるとも、ラーマニ氏は言う。
トランプ氏は10月の時点で、「2秒でくびにする」と、ラジオの取材に答えている。
機密書類持ち出し事件
スミス特別検察官はもうひとつ、トランプ被告が2021年に退任後に機密書類を違法に取り扱った罪で起訴している。この罪状についても、次期大統領は否認している。
次期大統領は、機密書類をフロリダ州の自宅で違法に保管していたほか、司法省がそれを回収しようとしても妨害した罪のため、連邦法違反で起訴されている。
フロリダ州の連邦地裁で審理を担当したのは、トランプ政権中に指名され就任したアイリーン・キャノン判事。同判事は7月に、そもそも司法省がスミス氏を特別検察官に任命したことが違法だったと主張し、訴えを棄却した。
スミス検事はこれについて控訴したものの、トランプ被告が次期大統領になった今、この事件についても裁判打ち切りへ向けて協議が行われている。
ラーマニ元検事は、機密書類持ち出しに関するこの審理も、選挙不正事件の審理と同じ運命をたどるだろうと話す。
「司法省は、機密書類事件に関する控訴を諦めるはずだ」
ジョージア州での選挙不正事件
トランプ次期大統領はほかに、ジョージア州でも、2020年大統領選の結果を覆そうとした罪で、州法違反で起訴されている。
この裁判をめぐっては、捜査を指揮したファニ・ウィリス地区検事が補佐官に採用した弁護士と恋愛関係にあったことから、担当検事として適任かを被告側の弁護団が争っている。ウィリス検事の適正は現在、控訴審で争われている。
ただし、トランプ被告が次期大統領となったことから、この事件の審理はさらに延期されるか、あるいは打ち切られる可能性がある。
法律の専門家たちは、第2次トランプ政権の間は、この審理は中断されるものとみている。
「もし当選したらトランプ被告は出廷するのか」と裁判長に尋ねられた弁護団のスティーヴ・セイドウ弁護士は、「(憲法の)優先条項と、合衆国大統領としての職務にかんがみ、この裁判は彼が任期を終えるまで、一切行うべきではないと考える」と答えている。
次期大統領は自分を恩赦できるのか
理屈の上では可能だ。ただ、大統領が自分に恩赦を与えた例は過去にないので、前例のない事態となる。
ただし、大統領が恩赦できるのは連邦法違反事件についてだけだ。
トランプ次期大統領は、州法違反の重罪34件で有罪となっている。そのため、ニューヨーク州の口止め料虚偽記載事件については、自身に恩赦を与えることはできない。
(英語記事 What happens to Trump’s convictions and legal cases after election win?/ Justice officials in talks to drop Trump criminal cases