2024年12月15日(日)

BBC News

2024年11月18日

ポール・アダムス外交担当編集委員(ドニプロ)、キャサリン・アームストロング、BBCニュース(ロンドン)

ロシア軍は17日、ウクライナ各地にミサイルとドローン(無人機)による空爆を実施した。この「大規模」攻撃はウクライナの電力インフラを標的にしたものだと、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は述べた。

首都キーウやドネツク、リヴィウ、オデーサなど複数都市が標的となり、少なくとも計10人が殺害された。

ウクライナ最大の民間電力会社DTEKは、複数の火力発電所が「大きな被害」を受け、停電が発生したと発表した。

ウクライナの国営送電会社ウクレネルゴは、ウクライナ全土で18日に「制限措置」を実施するとしている。

当局や地元メディアによると、16日夜からの一斉攻撃は9月上旬以降で最大規模のものだった。

合わせてミサイル約120発とドローン約90機のが発射されたと、ゼレンスキー大統領はメッセージアプリ「テレグラム」で述べた。

「平和な都市や眠っている市民」、「重要なインフラ」が標的にされたと、ウクライナのアンドリイ・シビハ外相は述べた。

ロシア国防省は、この攻撃は「ウクライナの軍産複合体を支える重要なエネルギー・インフラ」に対するもので、すべての標的を攻撃したと報告した。

ゼレンスキー氏は「ロシアのテロリストはまたしても、寒さの中、そして光が失われている中で、我々を脅かそうとしている」と述べた。

兵器製造工場の電力を遮断しようとすれば、民間人への被害は避けられない。間接的には電力の喪失や、頻繁な断水という影響が出るほか、直接的には、ミサイルやミサイルの破片が空から降ってくることになる。

オデーサ州のオレフ・キペル知事によると、暖房と水の供給も影響を受けているが、水の供給は徐々に回復している。病院やそのほかの重要なインフラは発電機を使って稼働している。

さらに東に位置するミコライウ市も攻撃を受けた。ただし、しきりに続く攻撃にさらされているにも関わらず、住民はたくましく暮らしていると、ミコライウ州のヴィタリー・キム知事はBBCに話した。

「住民は元気で、自衛したいと思っている。私たちは家を失いたくないので」と、キム知事は述べた。

キーウでは、ウクライナが迎撃したミサイルやドローンの破片が複数個所に落下したが、負傷者は報告されていない。

「今年8回目」の電力インフラへの大規模攻撃

DTEKは今回の攻撃について、ウクライナのエネルギー施設を標的とした大規模攻撃は、今年に入ってから8回目だと声明で述べた。また、2022年2月にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始して以降、DTEKの施設は190回以上攻撃されていると付け加えた。

ウクライナ当局は今回の攻撃について、ロシアが冬の到来に合わせて送電網を消耗させようとして、連携作戦を開始したのではないかと懸念している。

全面侵攻が始まって以来、すでに繰り返し厳しい冬を耐えてきたウクライナの人々は今また、冬に備えている。

「まただ」と、ウクライナの民間エネルギー会社の関係者は述べた。17日にウクライナ各地に漂っていた雰囲気を、この一言が表していた。

ウクライナはこれまで、創意工夫と断固とした意志の力によって、ロシアによる冬季の大規模攻撃を乗り切ってきた。同国の発電能力は今や2022年2月時点の半分以下に縮小している。それでも今年も、その状態で冬を乗り切る可能性は高い。

隣国も警戒

ウクライナの西隣にあるポーランドは安全上の予防策として、複数の戦闘機をスクランブル(緊急発進)させ、自国領空を巡回させた。

「ロシアが巡航ミサイルや弾道ミサイル、ドローンを使ってウクライナ西部の拠点などを攻撃しているため、ポーランドとその同盟国の航空機による作戦が開始された」と、ポーランドの作戦司令部は説明した。

ウクライナとポーランドに隣接するハンガリーも、国境から約20キロの地点がドローン攻撃を受けたため警戒態勢を敷いた。

ハンガリーの国防相は「状況を継続的に監視している」とした。

米次期政権の対応に注目

今回の大規模攻撃は、ドナルド・トランプ次期米大統領が来年1月の就任後にどのような行動に出るのか、ウクライナとロシアの双方が見極めようとしている中で起きた。

トランプ次期大統領は一貫して、戦争を終結させることと、ウクライナ軍事支援というかたちでアメリカの資源を流出させている事態を終わらせることが最優先だと述べている。しかし、その方法は明かしていない。

アメリカはウクライナへの最大の武器供給国だ。ドイツのキール世界経済研究所によると、戦争開始から2024年6月末までの間にアメリカが供給した、もしくは供給すると約束した武器や装備は総額555億ドル(約8兆5700億円)に上る。

ロシアは依然として、広い範囲のウクライナ領を占領している。それだけにウクライナ政府の中では、ロシアに都合の良い形で戦争を終わらせるよう、交渉圧力にさらされるのではないかという懸念がある。

ゼレンスキー氏は、トランプ新政権下でロシアとの戦争が「より早期に終わる」ことは間違いないと述べている。

ロシア大統領府(クレムリン)のドミトリー・ぺスコフ報道官は最近、ロシア国営メディアに対し、アメリカの次期政権から「前向きな」シグナルを得ていると語った。しかしロシア側は、トランプ次期大統領が電話会談でロシアのウラジーミル・プーチン大統領に戦争をエスカレートさせないよう警告したとする報道内容は、事実ではないと否定している。

トランプ次期大統領がホワイトハウスに戻ると、どのような変化があり得るのか、様々に議論されている。しかし17日の攻撃は、この戦争の厳しい現実に特に変化がないことを示しているようだ。少なくとも今のところは。

こうした中、ウクライナのもう一つの同盟国ドイツのオラフ・ショルツ首相は、15日にプーチン氏と電話会談したことについて自己弁護した。

「ウクライナを衰退させるためにドイツや欧州、世界の多くの国々の支持をあてにすべきではなく、この戦争を確実に終結させるのもまた彼(プーチン氏)次第なのだと、彼に伝えるのは重要なことだった」と、ショルツ首相は17日に述べた。

プーチン氏が戦争に対する考えを変えた様子はないとも、首相は付け加えた。

(英語記事 'Massive' Russian attack causes Ukraine blackouts

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cp3n8jwp7lwo


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