ポール・アダムズ外交担当編集委員、キャスリン・アームストロング(BBCニュース)
アメリカのジョー・バイデン大統領は17日、ウクライナがアメリカから供給された長距離ミサイルを使用してロシアを攻撃することを許可した。米メディアなどが報じた。この前日にはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が国内メディアに、ドナルド・トランプ次期大統領の政権になれば戦争は「より素早く終わる」だろうと話していた。
ロシア大統領府(クレムリン)は18日午前、もしもアメリカが提供したミサイルがロシア領内の奥深くまで撃ち込まれたとしたら、ロシア政府はその場合、その攻撃はアメリカそのものによる攻撃と受け止めると声明で述べた。
長距離ミサイルのロシア領内使用についてアメリカ当局者は、アメリカの政策にとって大転換となるこの動きを、BBCが提携するCBSニュースに対して認めた。ミサイルの使用許可は、ウクライナが夏に侵攻したロシア西部クルスク州内でウクライナ軍を防衛するためにのみ、限定されるものという。
ゼレンスキー大統領はここ数カ月間、「陸軍戦術ミサイルシステム(ATACMS、エイタクムス)」として知られるミサイルの使用制限を解除し、ウクライナが自国の国境外を攻撃できるようにするよう強く求めてきた。
ゼレンスキー大統領はミサイル使用に関するアメリカの報道について、「そういうことは、発表されるたぐいのものではない(中略)ミサイルそのものが雄弁に語る」と述べた。
これについてクレムリンは18日、アメリカ製ミサイルがロシア領内の奥深くまで撃ち込まれた場合、ロシア政府はアメリカそのものによる攻撃として受け止めると声明で述べた。
ロシア政府はさらに、これまでロシアとウラジーミル・プーチン大統領は自分たちの姿勢をきわめて明確に示してきたので、今回のアメリカ政府の決定は、紛争に対するアメリカの新しいレベルの関与を示すものだとも述べた。
ロシア政府は、任期満了を目前にしたバイデン政権が、「火に油」を注ごうとしており、この紛争のエスカレーションを挑発しようとしているのは「明らかだ」とも非難した。
プーチン大統領は9月の時点で、西側の長距離ミサイルを使ってウクライナがロシア領内を攻撃するような事態は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国によるウクライナ戦争への「直接的な参加」を意味する、と述べていた。
北朝鮮兵の参戦に対する措置か
アメリカのATACMS使用許可は、8月にウクライナが奇襲して侵攻したロシア西部クルスク州内で、ウクライナ軍を防衛するためにのみ限定されている。
これにより、バイデン政権はウクライナに対して事実上、現在占領しているロシア領の一部の維持を支援したことになる。この占領地は、将来的な交渉のための強力な交渉材料になる。
キーウに拠点を置くウクライナ安全保障協力センターのセルヒイ・クザン会長はBBCに対し、バイデン大統領の決断はウクライナにとって「非常に重要」だと語った。
「戦争の行方を変えるようなものではないが、これまでよりもウクライナ軍の戦力がロシア軍の戦力に均衡するようになるだろう」
米紙ニューヨーク・タイムズと同ワシントン・ポストはともに、匿名のアメリカ政府高官の話として、バイデン氏がウクライナによるATACMSの使用を承認したのは、ロシアが北朝鮮の兵士をウクライナで戦わせることを認めたことへの対応だと伝えた。
クザン氏は、今回の決定が、ロシア軍と北朝鮮軍による大規模な攻撃の開始前に間に合ったことを指摘。両軍は、ウクライナ軍をロシアのクルスク州から追い出そうとしており、数日内に開始される見通しだという。
ウクライナは以前、クルスクには1万1000人の北朝鮮兵士がいると推定している。
またバイデン氏の決定により、イギリスとフランスが最終的に、ウクライナにロシア国内での長距離ミサイル「ストーム・シャドウの使用を許可することになるという、副次的な影響もあるという。
イギリスもフランスも、バイデン大統領の決定に対してまだ反応を示していない。
ATACMSは最大射程距離が300キロメートルに達し、高速で飛翔するため迎撃が難しい。
ゼレンスキー大統領は先月、ウクライナがアメリカから供給された長距離ミサイルを初めて使用し、自国東部にあるロシア軍の標的を攻撃したことを認めた。
ウクライナはこの数カ月間、東部ドンバス地方の主要都市ポクロフスクに向けて徐々に進軍するロシア軍を押し戻すために戦ってきた。ポクロフスクは、ウクライナ軍の主要補給拠点となっている。
ロシアは、ウクライナに対するドローン(無人機)攻撃の回数も大幅に増やしている。ウクライナ参謀本部によると10月には、開戦以来最多の2000回以上が実施された。
16日夜にも、ロシアはここ数カ月で最大規模とみられる一斉攻撃を行い、少なくとも10人が死亡した。ゼレンスキー氏によると、ミサイル120発のドローン90機が発射された。
17日夜にも攻撃は続き、ロシア国境に近いスーミの当局者は、ミサイルが住宅ビルを直撃し、子供2人を含む8人が死亡したと報告した。
ウクライナは、同盟国の支援が不十分で、ウクライナが自国を効果的に自衛できずにいると主張してきた。
来年1月にホワイトハウスを去るバイデン大統領は、ウクライナへの追加支援を迅速化しようとしている。
ドナルド・トランプ次期米大統領については、ウクライナへの追加支援を減速または停止させるのではないかという懸念がある。トランプ氏は、軍事支援をアメリカの資源の浪費と表現。大統領選中には、次期大統領として戦争を「一日で」終わらせると繰り返し約束していたが、その具体的な方法についてはまだ明らかにしていない。
アメリカはウクライナへの最大の武器供給国。ドイツのキール世界経済研究所によると、戦争開始から2024年6月末までの間にアメリカが供給した、もしくは供給すると約束した武器や装備は総額555億ドル(約8兆5700億円)に上る。
しかし、ウクライナ軍事支援についてアメリカ国内世論の支持は、特にトランプ氏が説得した共和党支持者の間で、弱まっている様子。
ゼレンスキー氏、トランプ次期米大統領について
バイデン政権が長距離ミサイルの使用を認めたという報道に先駆けて、ゼレンスキー大統領は、トランプ氏が大統領に就任したあかつきには、ロシアとの戦争は「より早く終わると確信している」と述べていた。
ゼレンスキー氏は16日、ウクライナのメディア「Suspilne」のインタビューで、米大統領選後にトランプ氏と行った電話会談で「建設的な意見交換」を行ったと述べた。
また、ロシアとの交渉についてトランプ氏から何か要求があったかどうか、ゼレンスキー氏は触れなかったものの、ウクライナの立場を損なうような発言はトランプ氏からなかったとも述べた。
「今後ホワイトハウスを率いるチームの政策で、戦争は確実に、より素早く終わるはずだ。それが(トランプ陣営の)姿勢で、国民に約束してきたことだ」と、ゼレンスキー氏は話した。
また、ロシア軍が戦場で前進していることを受け、「ウクライナは、この戦争が来年、外交手段によって終結するように、あらゆることをしなくてはならない」と付け加えた。
トランプ氏とゼレンスキー氏の関係は、以前から複雑にからみあっていた。トランプ氏は2019年、バイデン米大統領の家族に関する不利な情報を掘り起こすようゼレンスキー氏に圧力をかけたという告発により、弾劾された。
これまでの立ち位置は大いに異なるものの、トランプ氏は、自分はゼレンスキー氏と非常に良い関係を築いてきたと主張している。
9月にニューヨークで会談した際、トランプ氏は「多くのことを学んだ」と述べ、戦争を「とても素早く解決する」と述べた。
(英語記事 Biden allows Ukraine to strike inside Russia with missiles/ Zelensky says war will 'end sooner' with Trump as president)