オーストラリア連邦議会の上院は18日、チャールズ国王が10月に議会を訪れた際、「あなたは私の国王ではない」と国王に向かって叫んだ先住民のリディア・ソープ上院議員について、問責決議を賛成46、反対12で可決した。
ソープ議員(無所属)はオーストラリア先住民の女性。10月21日にチャールズ国王が議事堂で演説を終えた直後、「あなたは私の国王ではない」、「ここはあなたの土地ではないし、あなたは私の国王ではない」などと国王に向かって叫び続けた。議員は警備スタッフによって会場外に退出させられた。
これについて上院は問責決議で、議員の行動が「無礼で、場を乱すもの」だったと非難。議員団の代表として発言することを、認めるべきではないとした。
問責決議は政治的に象徴的な意味をもつが、法的な強制力はない。
この決議についてソープ議員は、審議で自ら発言する機会を奪われたと記者団に話した。飛行機の遅れから、審議に間に合わなかったのだという。
そのうえで議員は、「イギリス王室はこの国のファースト・ピープル(先住民)に対して、深刻な罪を重ねた。(中略)私は決して沈黙しない」と強調した。
ヴィクトリア州選出のソープ議員は以前から、豪政府と先住民との条約締結を要求している。オーストラリアは、そうした条約がない唯一の旧英植民地。アボリジナルやトレス海峡諸島民の多くは、主権や土地を王権に譲ったことはないと強調している。
チャールズ国王を罵倒した後、ソープ議員はBBCに、国王に対して「明確なメッセージ」を送りたかったと説明。「主権者になるには、その土地の者でなくてはならない」、「彼はこの土地の者ではない」と述べた。さらに、国王は議会に対し、先住民との和平条約について話し合うよう指示する必要があると述べた。
ソープ議員の10月の言動について、オーストラリア政界では与野党から非難が相次いだ。アボリジナルやトレス海峡諸島民の有力な指導者の間でも、議員を批判する人が声が上がった。
その一方、議員の行動を支持する意見もある。オーストラリアの先住民が植民地支配による暴力を受けただけでなく、今も先住民以外のオーストラリア人と比べて、健康状態や経済力、教育、平均寿命などさまざまな面で著しく不利な状態にある窮状に、世界の注目を集めることに成功したと評価する人もいる。
ソープ議員の抗議行動をよそに、チャールズ国王夫妻は5日間のオーストラリア訪問の間、各地で大勢に暖かく歓迎された。
アンソニー・アルバニージー首相はその際、「この国の憲法上の取り決めや、国王との関係性の未来について私たちが議論する間でさえ、国王は私たちオーストラリア人を大いに尊重してくれた。不変のものなどない」と演説で述べていた。
ソープ議員は、先住民の権利のために闘う活動家として知られ、その行動はたびたび世界的に注目されてきた。
2020年に初当選した議員は、2022年5月に再選された。同年8月に就任のため宣誓する際、「オーストラリア女王、エリザベス2世に真の忠誠を誓う」と定められた言葉を述べるにあたり、「植民者エリザベス2世」という表現を使った。これを批判され、宣誓をやりなおすよう求められた議員は、「植民者」の表現を省いて、決められた言葉で宣誓した。
オーストラリアでは昨年10月、先住民をオーストラリアの「ファースト・ネイション(最初の人々)」として承認し、政府に政策提言するための機関を設置する案が国民投票で否決された。
「The Voice(声)」と呼ばれたこの国民投票では、賛成派と反対派の双方が激しい運動を展開。否決後には、先住民についてどのような政策が実施されるのか不透明なまま、さまざまな勢力がそれぞれに活動を続けている。
国民投票については、アボリジナルとトレス海峡諸島民の過半数が賛成したものの、その支持は一枚岩ではなかった。
チャールズ国王に抗議したソープ議員は、国民投票にかけられた政府案に「反対」した急先鋒だった。政府案の内容は形ばかりで、「進歩を偽る安易な方法」だと議員は批判していた。