NPO法人鹿サポーターズクラブと、奈良公園のシカ相談室も設けられた。こちらはシカに何らかの被害を与えられた人への対応を担う。怪我をした人には病院を紹介するか付き添うほか、シカを怒らす行為、あるいはシカに害をおよぼす行為をしている人に注意することもある。そのため公園中をパトロールしている。
ほかにもシカと人間の間に立って共生に尽力する多くの個人や団体があるのだ。
シカの保護をし続けられる理由
なぜ、ここまでシカを大事にするのかと言えば、第一に1000年以上神鹿として守ってきた信仰であることは言うまでもない。奈良の歴史と文化に欠かせない存在なのだ。
ただ同時に重要な観光資源であることも間違いない。奈良公園を訪れる観光客は年間1300万人以上とされているが、多くがシカを目にして楽しんでいる。
とくに最近は外国人観光客が激増した。彼らを観察していると、奈良訪問の目的は大仏や神社仏閣よりも、街中を闊歩するシカだと感じる。奈良のシカと戯れ、一緒に写真を撮ることに夢中になっているからだ。当然ながら彼らの落とす金も莫大だろう。
それでも周辺農家からは不満も出るし、観光客も怪我をしたら奈良のイメージを悪くする。それらの不満を抑えるため、被害を受けた人々をなだめつつ、シカを保護する。同時に被害を出さない手立ても取る。
また庭木を食べられた市民も、ぶつぶつ文句を言いつつも、神鹿だからと我慢する。両者が共生するために尽力しているのだ。
そんな実態を知ると、人と動物が共生することがいかに大変か想像できるだろう。
シカはまだしも、クマとなると人身に危険を及ぼす心配も大きい。イノシシも危険だ。保護は簡単ではない。しかも生息数が激増している。野生鳥獣による農業被害額は22年で約156億円とされるが、人身や森林生態への悪影響も甚大だ。
ちなみに23年の全国の有害駆除数はシカが約72万頭。イノシシは52万頭、クマも9000頭を超えた。奈良県も、奈良公園周辺以外ではシカの駆除を続けている。