本当の意味の共生とは
とはいえ、駆除一辺倒でも獣害は収まらない。有害だからと動物を絶滅させるのは不可能であり、やるべきでもない。また世界的にアニマルウェルフェアの考え方が広がっており、駆除するにしても動物に苦痛を与えないなど指針は厳しくなってきた。
まず必要なのは、人間が野生動物の生態に関する知識を正しく持つことだ。そのうえで防護柵の設置などやるべきことが多くある。そうして可能な限り被害を減らしつつ、一定量の被害は受容する覚悟も求められる。ただし人身被害など一線を超えた場合は、容赦なく駆除も含めて対応しなければならない。
生物学的な観点から言えば、「共生」とは「共に仲良く生きる」ことではなく、両者が緊張感を持って向かい合った結果の棲み分けだ。仮に人間側が気を緩めて対策をなおざりにすれば、シカもイノシシもクマも人間社会にズカズカと押し入ってくるだろう。
奈良のシカも、人が角を切ったり樹林や農地の周辺に柵を築いたりと被害を減らすための努力を行っている。一方で農作物を荒らす個体を捕獲しても施設に収容することで一律に駆除しない。そのために行政だけでなく民間も多大な手間とコストを強いられている。
もし奈良公園を訪ねることがあったら、そんな裏方の苦労も想像しつつシカに鹿せんべいを与えてやってほしい。